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税理士法〜平成13年改正までの歩み
平成13年改正以降、26年改正までの歩み
税理士法改正2014年(平成26年)改正以降
税理士制度の見直しについて
税務援助業務と税理士制度のあり方
税理士法〜平成13年改正までの歩み

T.税理士法の現状

1.租税法律主義と申告納税制度
(1)昭和21年 日本国憲法公布
(2)租税法律主義
上記のように憲法では、納税者の代表で構成される議会の同意,すなわち法律がなければ課税できない租税法律主義を宣明している。
→ 課税権者による恣意的な課税を阻止(課税権行使の制限)
→ 納税者の法的安定性・法的予測可能性を確保(国民の権利・義務)
(3)昭和22年 所得税、法人税、相続税の3つの主要な国税に申告納税制度が導入
申告納税制度とは、納税者が租税法の規定に基づき、所得金額及び納付税額等を自ら計算し、確定する制度。
→ 申告納税に係る租税の納税義務の範囲は、第一次的には納税義務者の申告行為によって確定
→ 国民主権の原理に立った制度
→ 課税庁が税額決定する賦課課税制度とは根本的に異なる制度

2.税理士の使命
(1)社会的要請とあるべき税理士像
税理士制度を創設し、税理士にその使命を与えた社会的要請は、納税者の代理人として、租税法令に定める課税要件等を適切に判断し、納税義務の適正な実現をするとともに、納税者の権利利益を擁護する税務の専門家の必要性。
(2)税理士法
税理士法は、第1条において、税理士の使命を規定

3.税理士制度の経緯
税理士という職業は、沿革的に言って、明治の昔から自然発生的なものとみられる。
・明治06年 地租改正 年貢→地租(税金)
・明治20年 所得税創設
・明治22年 大日本帝国憲法公布 翌23年施行
・明治27年 日清戦争(1894〜1895)
・明治29年 地方税であった営業税の一部を国税化
・明治32年 所得税改正 第1種法人所得、第2種公社債利子、第3種個人所得
・明治37年 日露戦争(1904〜1905)
・明治45年 大阪税務代弁者取締規則

税理士制度の法制化
・昭和02年 計理士法制定 税務代弁者の相当数が計理士資格を取得
・昭和06年 満州事変(1931)
・昭和08年 税務代理人法案の議員提出があったが不成立
・昭和12年 日中戦争 (1937〜1945)
・昭和16年 太平洋戦争突入(1941〜1945)
・昭和17年 税務代理士法制定
・昭和20年 8.14 ポツダム宣言受諾、8.15 天皇玉音放送、9.2 降伏文書調印
・昭和21年 11.3 日本国憲法公布、翌年 5.3 施行
・昭和22年 申告納税制度導入
・昭和24年 シャウプ勧告(第1次)、「納税者の代理」を勧告
・昭和25年 シャウプ勧告(第2次)、青色申告制度導入
・昭和26年 税理士法成立(1951)

4.税理士法改正経緯
(1)昭和17年2月23日 税務代理士法施行
【政府提案理由】
新たに税務代理士法を制定し、税務代理士の制度を設け、其の素養の向上を図りますと共に、是等の者に対する取締りの徹底を期し、之に依り戦時に於ける税務行政の円滑なる運用に資せむとするのであります。
○昭和24年6月 大蔵省の外局として国税庁発足
○昭和24年9月 シャウプ勧告
納税者の代理を立派につとめ、税務官吏をして法律に従って行動することを助ける積極的で見聞のひろい職業群が存在すれば、適正な税務行政はより容易に生まれるであろう。 また引き続いて、適正な税務行政を行うためには、納税者が税務官吏と同じ程度の精通度をもってしようとすれば、かかる専門家の援助を得ることが必要である。

(2)昭和26年6月15日 税理士法公布(7月15日施行)税理士法の施行に伴い税務代理士法は廃止
【税務代理士法からの主な改正事項】
・税務代理士の名称を「税理士」と改称
・試験制度の導入
〇昭和26年3月30日第10回国会衆議院大蔵委員会 三宅則義
現行税務代理士法は昭和17年に制定せられ、税務代理士は所得税、法人税等の租税に関し、納税者の代理等の業務を行って参りましたが、戦後申告納税制度及び青 色申告制度等が実施せられ、租税制度に根本的な改正があり、 税務代理士の職責はますます重加し、その素質の向上をはかる必要が強く要望せられていたのであります。 右の要請に基づきまして、新たに試験制度及び登録制度を採用して、人格及び能力と もに適切な人材が納税者の代理業務に当たり、納税者の信頼と国家の期待にこたえて、租税負担の適正化をはかりつつ、 申告納税制度の適切な発展に資せしめることとする 等のため、現行税務代理士法を廃止し、税理士法を制定することといたしたいと存ずる次第であります。

(3)昭和31年6月30日 改正税理士法公布(一部を除き同日施行)
【主な改正事項】
・退職税務職員等に対する特別試験制度の導入(5年間の時限措置)
・会員の税理士会に対する間接強制入会制度の採用
→税理士会に入会した税理士でなければ税理士業務を行ってはならない。
・税理士が作成した申告書に、税理士が行った計算事項等を記載した書面の添付制度が創設された。(33条の2)

(4)昭和36年6月15日 改正税理士法公布(12月10日施行)
【主な改正事項】
・税理士の登録事務を国税庁から日本税理士会連合会(以下「日税連」)に委譲
(資格審査会を新設)
・時限措置であった税理士特別試験制度が、あり方を検討するためとして、存続期間を「当分の間」と暫定措置化して延長された。

(5)昭和39年4月 政府が改正税理士法案提出(昭和40年6月廃案)
36年改正時の「当分の間」を受けて、38 年政府税制調査会から「税理士制度に関する答申」が提出され、これをもとに39年4月に全面的改正法案が政府提案された。
試験制度では、特別試験に代えて成立時の資格認定制度(行政実務経験者については、簿記に関する実務に関する口頭試問によって認定する。)を復活させ、一般試験においては科目別合格制度を廃止し、 予備試験、本試験(短答式、実務応用問題)の二段階試験に改める内容を含む、行政の意向を強く打ち出した改正内容に、各方面から反対の声が上がり、3国会に及ぶ国会審議も難航した結果、廃案となった。
〇 昭和47年6月 「税理士法改正に関する基本要綱」
39年改正案への反対運動を通じて、国税当局の考え方が、徴税権力強化と税務関連団体の育成であることを悟った日税連は、税理士法改正を行政頼みから、国会中心へと視野を広げて、新たなスタートを切った。
41年に会長諮問機関として税理士制度調査会を設置し、各界から広く識者を招き、税理士法改正の基本構想を定めるべく、「わが国における税理士制度のあり方」を諮問した。43年12月調査会の答申が示された。 その後日税連において制度部・税理士法改正対策委員会が中心となって、45年7月「税理士法改正に関する第一次試案」が、翌46年5月に「税理士法改正に関する第二次試案」が審議の結果として報告され、会員各層に意見が求められた。 最終的には47年7月理事会において、税理士法改正に望む税理士界の基本的考え方として「税理士法改正に関する基本要綱」が議決され公表され、大蔵省等に建議した。 その後「基本要綱」の線に沿って改正運動を進めていくが、紆余曲折があり 55 年改正へと移っていった。

(6)昭和55年4月14日 改正税理士法公布(10月13日施行)
【主な改正事項】
・第1条(税理士の職責)を(税理士の使命)と改め、現行の規定に改正した。
・付随業務規定の新設
・行政実務経験者に対する特別試験は廃止されたが、一定の経験を有する(23年間)税務職員に、実質的に無試験で税理士資格を付与することとされた。
・税理士業務の対象となる税目の範囲の拡大
・税理士登録即入会制度に改められた。
・権利及び義務に関する規定の整備、監督義務、助言義務等義務規定の強化
・原則として税務署管轄地域に税理士会支部を設置する。
・通知公認会計士の特例の廃止→本法付則において許可公認会計士の特例
〇 平成5年5月 「21世紀へ向けての税理士制度の構想 税理士法改正要綱」
東京税理士会は平成2年から第一次試案、タタキ台、素案を公表するとともに、支部法対策委員を通じ一般会員の意見も徴して、同改正要綱を取りまとめ、日税連へ法改正を要望した。
〇 平成9年12月 行政改革委員会 最終意見公表
・資格士業の業務独占規定は当該資格を有しないものを市場から制度的に排除するという、参入規制的要素を色濃く持つもので、結果として限られた有資格者が特権意識持ち、当該資格者による特殊なムラ社会が形成されがちである。
・そうした市場においては、一般に競争が排除され、サービスの質が低下し、価格が高止まりしがちである。
・有資格者、無資格者の選択は、国民が自己の責任において判断し、依頼すれば良いのではないか。
・有資格者も無資格者も市場という共通の土俵で競争することによって、全体としてより良いサービスが、より安価に提供されるようになるのではないだろうか。

(7)平成13年6月1日 改正税理士法公布(平成14年4月1日施行)
【主な改正事項】
・租税に関する訴訟において、訴訟代理人と共に出廷し、陳述することができる補佐人制度の創設
・修士に関する試験免除制度が、1 科目合格を要することと改正された。
・税理士の受験資格要件の緩和
・税理士法人制度の創設
・税理士報酬規定の削除、研修制度の充実、財務大臣の役員解任規定の廃止
・計算事項・審査事項等を記載した書面添付に係る意見聴取制度の拡充
・補助税理士制度の導入
・登録制度の整備
・会員の業務に関する紛議の調停制度の創設
・日税連の財務内容等に関する書類の公開
・許可公認会計士の特例の廃止

U.税理士法改正理念の歴史

1.昭和38年「税理士制度のあり方に関する税法学鑑定書」(北野弘久)
昭和36年改正の国会審議において、三年間を目途として税理士制度全般にわたる検討をする事を約した政府、税制調査会に諮問し「税理士制度に関する答申」が38年12月に示された。 北野先生は、これに先立つ38年夏に日税連等税理士業界に対して、税理士の本質は単に税務会計専門家ではなく、会計学・経営学等に精通した税金問題の法律家・弁護士でなければならないとする基本的な考えのもと、 「税理士制度のあり方に関する税法学鑑定書」を提示し、その理論を明らかにした。

2.「税理士法改正に関する基本要綱」(日税連)
(1)1972(昭和47)年6月 税理士は、租税に関する専門家であり、納税者の代理人として実定法による納税義務の実現および権利救済に奉仕することは当然であるが、さらに、租税の憲法的意義をふまえて、 租税制度全般にわたって国民の権利を擁護すべき立場を堅持すべきものと認められる。

(2)税理士の使命
(1)税理士は、納税者の権利を擁護し、法律に定められた納税義務の適正な実現をはかることを使命とする。
(2)税理士は、前項の使命にもとづき、誠実にその職務を行い、納税者の信頼にこたえるとともに、租税制度の改善に努力しなければならない。

(3)1979(昭和54)年4月5日
日税連が突如として「基本要綱」を「凍結」。

3.「税理士法改正要綱」(東京税理士会) (通称「グリーンブック」)
(1)1933(平成5)年5月 「基本要綱」の「凍結」を受け、東京会として税理士法改正の指針になるものとして「― 21世紀へ向けての税理士制度の構想―税理士法改正要綱」を作成、機関決定した。
「税理士法改正要綱」の作成に当たっては、「あるべき税理士像を具現化する法制度の確立を通じて、税理士制度の整備を目指すことを会員共通の理解とした。」とし、 「『改正要綱』としたのは、現行税理士法に関する不備、欠陥の重要(根本的)な事項をとりまとめたものであるから」としている。

(2)1993(平成5)年〜2004(平成16)年
東京会の定期総会において新年度の事業計画の重点施策として「税理士法改正要綱の理念を実現する」として承認してきた。

(3)2005(平成17)年
東京会は、平成13年税理士法改正後も事業計画の重点施策として「税理士法改正要綱の理念を踏まえ、」としてきた。 それはグリーンブックの理念が13年度の改正では実現していないと判断してきたからに他ならないが、平成17年度の事業計画の重点施策からこの文言を削除した。理由は、はっきりしていない。

V.税理士法改正の必要性

1.理念の実現
(1)国民のための税理士制度の確立
そもそも税理士制度は国民のためにある以上、「国民のための税理士制度の確立」、つまり納税者の代理人として納税者の権利擁護を担う税理士制度、という理想に向かって、制度を理想に近づける努力が常に必要である。

(2)あるべき税理士像の具現化
租税法律主義を基本原則とする租税制度のもとにあっては、「納税義務を負わない権利」は憲法が保障している「納税者の権利」である。
申告納税制度において、税理士に課せられるべき社会的任務は、納税者の自主申告権である税法上の行為を援助するとともに、税法上の権利を擁護することである。
税理士法改正の必要性は、税務の専門家であり、納税者の代理人として納税者の権利を擁護する、という税理士のあるべき姿を完成させるための基礎となる税理士法の規定が、時代の要請に応えて整備されることである。

2. 時代の推移とともに変化する社会の要請に応える
(1)会社法制の現代化と税理士制度(職域問題と資格取得問題)
日税連は、税理士の職域拡大のため、平成2年当時「簡易監査(レビュー)」を主張したが、平成16年に、公認会計士にも受け入れやすい「財務諸表適正証明制度」(財務諸表の作成に関与した職業専門家が適正性を証明する。)を主張、 これは東京会の主張である「関与証明報告制度」(日本型コンピレーション)と同一であり、税理士業界の主張は一本化された。この背景を踏まえ平成16年5月「会計参与制度」が浮上、新会社法の中に組み込まれ、平成18年4月から施行されている。
税理士界は、公認会計士の専門である「監査」を業務に加えたいと考えてきた。このことは資格取得問題に影響を与え、税理士と公認会計士の使命の違いを持って公認会計士に対する自動資格付与の廃止を言いづらくしてきたと思われる。
「会計参与制度」は税理士の職能を生かす制度で職域拡大につながるとされ導入されたが広がらず、形骸化してきている。 また、棲み分け論から考えた場合、公認会計士に対する税理士資格自動付与の問題に悪影響を与えた可能性もあり、再考する必要がある。

(2)公認会計士法改正について
公認会計士法は平成15年の改正により、第1条(公認会計士の使命)を新設し、「公認会計士は、監査及び会計の専門家として、独立した立場において、財務書類その他の財務に関する情報の信頼性を確保することにより、 会社等の公正な事業活動、投資者及び債権者の保護を図り、もって国民経済の健全な発展に寄与することを使命とする。」とする規定を設けた。
→同時に、使命規定との整合性を図るため公認会計士試験制度を大幅に改革する法改正を行い、平成18年より実施している。
→新試験は、短答式試験及び論文式試験が実施されることとなり、事実上、学歴等による受験資格要件が撤廃されることとなった。この影響で公認会計士試験を受ける受験者が増加した。
→政府は平成30年までに公認会計士の数を5万人に増やす計画を掲げており、毎年の公認会計士合格者は3千人にまで拡大した。
→税理士と公認会計士は、会計の素養を必要とする専門家である点で共通しているが、その社会的使命、業務内容、資質を検証する試験は異なっている。
→公認会計士新試験の論文式試験の中に、「租税法(法人税等)」が加えられたが、これは、公認会計士が会社等の監査を行うために必要な学識及びその応用能力を有するかどうかを判定することを目的に設けられているもので、 税務の専門家としての学識及びその応用能力を有するかどうか判定するために設けられているものではない。
→試験制度は高度な専門性を必要とする職業会計人を生み出すためのもので、受験生に資格を取得させることが本来の目的ではない。 税理士資格を取得するためには税理士業務を行えるだけの税法に対する知識、理解力をマスターしなければならない。

(3)新司法試験
新司法試験は平成18年から実施され、平成22年までは旧司法試験も実施される。 合格者数に関しては、司法制度改革審議会の「法曹人口の大幅な増加を図ることが喫緊の課題である」という意見を踏まえ、司法制度改革推進計画(平成14年3月19日閣議決定)が作成され、 平成14年に千二百人程度、平成16年に千五百人程度に増加させ、さらに法科大学院を含む新たな法曹養成制度の整備の状況等を見定めながら、平成22年ごろには三千人程度とすることを目指す、とされている。
→弁護士法3条2項は「弁護士は、当然、弁理士及び税理士の事務を行うことができる。」と定め「税理士の事務」(弁護士法では税理士法の業務に相当する文言を事務と呼んでいる)が弁護士の職務範囲であることを明確にしている。
→会社法(平成18年4月施行)は、税理士に対して会計参与となる資格を付与している。この制度との整合性からみても、弁護士に対して、会計に関する資質の検証を経ずに税理士資格を付与することは不合理。

3.平成13年改正の総括
(1)指定研修について
税務官公署における勤務経験により税理士試験の一部科目を免除する制度のうち、会計学に属する科目免除につながる指定研修につき、財務省令で定める要件を満たすもの、とされた。(法第8条1項10号の括弧書き)
→税務官公署職員の勤務経験による試験免除制度は、いくつかの規定の組み合わせにより全科目の免除が可能となるために、一般試験との均衡を欠いているのではないか、 また、指定研修の質的レベル等が必ずしも明瞭ではなく、その適正性について確認できないのではないか。
→今般の改正により指定研修の指定基準を公表することにより、レベルが一般試験合格程度を確保することが期待された。
→衆参両議院における「税理士法の一部を改正する法律案に対する付帯決議」に「税務官公署職員の試験免除に係る指定研修については、一般試験との均衡に配慮し、 その指定、運営、実施、全般にわたって適正性・公正性を確保すること。」と記載された。

(2)補助税理士について
法第2条3項に、税理士が他人の求めに応ずるのではなく、他の税理士又は税理士法人の補助者として、他の税理士等の業務に従事することを妨げない旨規定され、補助者の行う税理士業務が法第2条1項、2項の規定と明記された。
→税理士法施行規則(以下規則)第8条第1項第2号ロにおいて「補助税理士」を「他の税理士又は税理士法人の補助者として常時同項に規定する業務に従事する者」と定義し、当該税理士を「補助税理士」として登録させることとした。
→法第40条第1項、4項及び、規則第18条においてそれぞれ「税理士(税理士法人の社員(財務省令で定める者を含む。第4項においても同じ)を除く。次項及び第
項において同じ。)及び税理士法人は、 税理士業務を行うための事務所を設けなくてはならない。」「税理士法人の社員は、税理士業務を行うための事務所を設けてはならない。」 「法第40条第1項に規定する財務省令で定める者は、補助税理士とする。」とされ、結果、補助税理士は税理士事務所を設けることは出来ないと規定されたため、補助税理士が税理士業務の委嘱を受けることを阻害する結果を招いている。
→法本法には「補助税理士は他人から直接委嘱を受けて税理士業務を行うことが出来ない。」との明文規定が無い、にもかかわらず納税者の権利擁護を使命とする同じ税理士が、 他の税理士等の補助者としての業務に従事する場合には、「他人の求め」に応じて税理士業務を出来ないとする現行補助税理士制度の規則・通達の解釈は行き過ぎであり、今後の税理士制度の発展を阻害しかねない状況である。

(3)研修について
法第39条の2に、「税理士は、所属税理士会及び日本税理士会連合会が行う研修を受け、その資質の向上に努めなければならない。」との規定が新設された。また研修に関する規定が税理士会の会則の絶対的記載事項とされた。
→日本税理士会連合会(以下日税連)会則においても、東京税理士会(以下東京会)会則においても研修に関する規定を定め、研修細則において、 「一事業年度に36時間以上の研修を受講するよう努めなければならない。」として、会員に努力義務を課している。
→努力義務なので罰則等が課されないこと、認定研修を認めているが、認定の基準が税理士の資質向上を図る上での明確な基準に基づくものとはいえないこと等の理由により、努力義務の規定は実態を伴っていない。
→納税者の信頼に応え、社会的責任を果たすための自己研鑽・資質の向上を図ることは、税理士としての責務
→参議院財政金融委員会の付帯決議では、「経済社会情勢の変化等に対応して高度化・複雑化する税理士業務の実態にかんがみ、その資質の維持・向上のため、研修制度の一層の充実を図り、その受講率の向上に努め…」としている。
→司法制度審議会の「中間報告」においても、各隣接法律専門職種に一定の範囲・態様の法律事務の取り扱いを認めることを前向きに検討する前提として「信頼性の高い能力担保制度を講じること」と指摘している。

(4)受験資格について
税理士試験の受験資格が、事務又は業務に従事した期間が5年以上になる者から3年以上になる者になる等、受験資格要件が緩和された。
→税理士試験の受験資格については、平成20年3月「規制改革推進のための3カ年計画(改定)」が閣議決定に至った。 内容は「税理士試験の受験資格については、受験資格が学歴等で差別されないような仕組みが十分担保されているか否かについて速やかに検討を行い、結論を得る。」(平成20年検討・結論、21年以降措置)
→平成20年12月国税審議会税理士分科会の議決は「税理士試験の受験資格は、学歴等で差別されない仕組みが十分担保されていると認められる。」とした。

(5)書面添付制度
書面添付制度(33条の2)は、申告書の作成に関する事項や他人が作成した申告書について審査した場合にはその審査事項についての書面を申告書に添付できるとする制度である。
改正法は書面の添付がある場合について次の規定を設けた。
税務職員は、この制度に基づく書面をつけた納税者に調査の事前通知をして税務調査をする場合、その租税に関し代理をしていることを示す書面を提出している税理士がいるときには、その事前通知をする前に、 その税理士から意見を聞かなければならない(35条1項)。
→税理士のあり方の根幹にかかわる制度。使い方によっては税理士の権限はアップするように見えるが、国がやるべき立証責任の転換措置にもなりかねない。
→これを裏付けるように、書面添付について当時の宮口専務は「現行税務行政を取り巻く環境の中で、税務職員の定員事情がより厳しくなることが予想される。」と語ったのち、 「納税義務の適正な実現という公共的な使命とする我々税理士は、税務行政においてますます重要な位置を占めている。」と結んでいる。

→書面添付に関するクイズ
【質問】
書面添付をしたのに意見を述べる機会もなく税務調査が入りました。考えられる理由を二つ述べてください。
【解答】
税務代理権限証書が未提出、無予告調査
法第35条の規定により事前通知前に意見を述べる機会が与えられるのは、 @税理士が計算し、整理し、若しくは相談に応じた事項を所定の方法により記載した書面又は税理士が審査事項及び適法に作成された申告書である旨を所定の方法により記載した書面が添付された申告書を提出した者に 日時場所を通知してその帳簿書類を調査する場合であり、かつ、Aその申告書に係る租税に関し税務代理権限証書を提出している税理士があるときです。


平成13年改正以降、26年改正までの歩み

T.平成13年改正以降の税理士法改正検討経過

1.日税連制度部による「税理士制度に関する意見」検討経過
(1)「税理士法改正に関するグランドデザイン」に係る検討結果(第1次報告)
・平成15年6月11日
・検討経過:「次期改正に向け、特に重要かつ慎重な対応が求められる税理士の使命、税理士の業務及び資格取得制度に論点を絞り、深度のある検討を重ねてきた。」

(2)「税理士制度に関する検討課題」(第二次報告)について(具申)
・平成17年6月16日
・検討経過:「『税理士法改正に関するグランドデザイン』としての取り纏めは適当でないとの結論に達した。しかし、税理士制度については検討を継続する観点から、テーマを『税理士制度に関する検討課題』として、 現行税理士制度のもとで、現状の分析を進めるとともに、それぞれの問題点について論点整理を行うこととした。」

(3)平成18年 ・閣議決定:規制改革の流れの中で、各省庁において規制に係わる法律ごとに設定する見直し年度等を一覧にして公表することが閣議決定された。
税理士法について、財務省はその見直しの必要性の検討を平成 23 年に実施するとしている。
・日税連 :上記を受けて、この機会に、税理士法を改めて見直し、税理士業界としての考え方をとりまとめる必要があった。

(4)「税理士制度に関する意見-来るべき税理士法改正に向けての提言-」について(具申)
・平成19年6月14日 ・検討経過:「第二次報告を基にして@規制改革、A隣接士業の制度改革、B税理士業務の無償独占・強制加入の堅持、C税理士の代理権限等について、を中心に検討を行い、次の税理士法改正に向けた具体的意見のとりまとめを行った。 特に、取りまとめに当たっては、税理士制度が更に納税者の利便に資するものであること、真に信頼される税理士制度の確立を目標とした。」

(5)「税理士法改正要
望項目」(タタキ台)について(具申)
・平成20年3月21日 ・検討経過:「当部では、平成19年6月に『税理士制度に関する意見―来るべき税理士法改正に向けての提言―』を公表したところですが、今般、この提言を基に検討を行い、 その結果を次なる税理士法改正に向けた「税理士法改正要望項目」(タタキ台)として取りまとめました。」(「具申文冒頭」より)

(6)「税理士法改正要望項目」(タタキ台)の再検討について(諮問)
・平成20年6月4日
・諮問意図:「国税庁との税理士法改正に関する協議における検討資料とするため」(「諮問文冒頭」より)

(7)「税理士法改正要望項目」(タタキ台)について(中間答申)
・平成21年1月21日
・検討経過:「改めて諮問を受け、各税理士会制度部からの意見を聴取のうえ更に検討を進めており、現時点での方向性を取りまとめましたので中間答申として提出いたします。」(「答申文冒頭」より)
・基本方針:「税理士制度が将来にわたって社会から信頼される制度としてさらに発展するため、国民の利便性と緊急性を重視し、『税理士の資格取得制度、あるべき試験制度』とあわせて 『新たな書面添付制度と意見聴取制度の構築』を最優先の改正項目として、法改正に向けて早急に取り組まなければならない。」(抜粋)

(8)「税理士法改正要望項目」(タタキ台)の再検討について(答申)
・平成21年3月18日
・検討経過:「社会から信頼される税理士制度を構築するため、国民の利便性と緊急性を重視し、『税理士の資格取得制度、あるべき試験制度』とあわせて『新たな書面添付制度と意見聴取制度の新設』及び 『税理士の信頼性の確保』を最優先して取り上げるべき改正項目と思料いたします。(「答申文冒頭」より)
・平成21年3月25日、正副会長会にて最終答申の取扱いを協議
・平成21年6月3日、正副会長会にて最終答申を集中審議、取扱方針を決定
・最終答申は公表されなかった。その理由を池田日税連会長は次のように述べている。
制度部答申は、平成13年改正以降の検討の成果をすべて盛り込んだものとなっており、最大限、尊重しなければならない。 しかし、制度部答申では改正意見を一つにまとめきれず賛否両論が併記されており、これをそのまま公表することによって日税連の方針に疑問をもたれる可能性もあり、かえって混乱をきたす懸念がある。

2.「税理士法改正に関するプロジェクトチーム(PT)」による検討経過
(1)「税理士法改正に関するプロジェクトチーム(PT)」の設置
・平成21年8月6日 正副会長会
・税理士法改正に関して具体的な方策を検討する機関として、会務執行規則に基づく補助分掌機関を設置。
・所掌 (1)税理士法改正に関する基本方針及び行動計画の策定
(2)税理士会員意見の集約及び税理士法改正要望所案の起草
(3)行政機関(財務省・国税庁)、立法機関、政党、関係士業団体等との意見交換及び協議

(2)税理士法改正に関するプロジェクトチームによるタタキ台
・平成21年11月25日、正副会長会で「税理士法改正に関するPTによるタタキ台」(13項目+検討2項目)が報告された。
・平成21年11月27日、日税連HPでPTタタキ台報告。
・同日 日税連HP会員専用サイトにて広く税理士会会員に意見募集がなされた。
・検討経過:「以下に記すのは、会長の諮問に対して制度部が平成21年3月18日に提出した答申『税理士法改正要望項目の再検討について』に掲げられた項目について、会員諸氏の議論を深めるため、 税理士法改正に関するPTとして一つのイメージを示したものである」(抜粋)
・特記事項:弁護士に会計科目、公認会計士に税法科目、の税理士試験合格者に有する学識と同程度の実務上の必要事項に関して、登録前において修習する新たな特別研修の受講義務制度を創設する。

(3)PTタタキ台に対する意見募集
・PTタタキ台の内容について、日税連ではよりよい法改正意見を策定するため、平成22年3月31日を期限として意見募集を行う。
・平成21年12月3日、制度部で改めて検討開始
・平成22年3月31日各会員意見等の提出を締め切り、会員からは3,251件の意見が寄せられた。
・会員意見を基礎に、制度部が、「PTタタキ台に対する会員意見の方向性別件数」を集計し、平成22年4月21日の正副会長会に報告した。

(4)税理士法改正に関する意見(案)
・平成22年5月31日 PTが「税理士法に関する意見(案)」(14項目)を取りまとめる。
・平成22年6月24日の理事会で上記が報告された。
・検討経過:「この『税理士法改正に関する意見』は、制度部が行った集計を受けて、PTタタキ台の『改正要望項目』について見直しを行い、税理士法改正についての検討資料とすることを目的として取りまとめたもの」(「意見文冒頭」より)
・特記事項:3条1項3号、4号を削除、8条に移行し、弁護士には税理士試験の会計科目1科目、公認会計士には税理士試験の税法科目1科目の合格が必要。

3.税理士法改正特別委員会による検討経過
(1)税理士法改正特別委員会設置
・平成22年9月9日 常務理事会制定
・税理士法改正を積極的に推進するため「税理士法改正に関するプロジェクトチーム」を廃止し、「税理士法改正特別委員会」(池田会長が委員長)を新たに設置する。
・所掌 (1)税理士会員の意見集約及び同会員への周知に関する事項
(2)税理士法改正要望項目に関する事項
(3)政府、国会、政党、関係官庁、関係士業団体等との協議に関する事項
・毎月1回委員会が開催された。
(2)平成23年度税制改正大綱
・平成22年12月16日 税制改正大綱閣議決定
・第3章 平成23年度税制改正 9.検討事項 〔国税〕
(1)納税者権利憲章の制定や税務調査手続の見直しなど納税環境整備に係る諸課題が進展し、その一環としての租税教育の重要性も一層高まる中、税理士の果たすべき役割は今後益々重要になっていくものと考えられます。 税理士制度については、平成23年度中に見直しの必要性や方向性について結論を出すこととされていますが、その見直しに当たっては、税理士を取り巻く状況の変化に的確に対応するとともに、 引き続き納税者の利便性を図り、税理士に対する納税者からの信頼をより一層高めるとの観点を踏まえつつ、関係者等の意見も考慮しながら、検討を進めます。

(3)税理士法改正に関する意見(案)
・平成23年4月21日 委員会より「税理士法に関する意見(案)」(14項目+3項目)がとりまとめられた。
・平成23年6月29日 理事会で上記が報告された。
・検討経過:「申告納税制度のさらなる発展を期し、次世代を担う若者や社会人の受験者を増加させるための試験制度の見直しを含め、より国民から信頼される税理士を養成するための改正等について、 積極的な提言を行うものである。(「意見文冒頭」より)
・特記事項:「税理士証票の更新義務」として税理士証票の更新制度を創設、更新要件を、研修の受講、税務援助への従事、会費の完納、税理士職業賠償保険への加入等とする。

(4)3者勉強会
・日税連、国税庁、オブザーバーとして財務省主税局の3者で勉強会を23年6月30日から24年6月11日まで14回開催。

(5)平成24年度税制改正大綱
・平成23年12月10日 税制改正大綱決定
・第3章 平成24年度税制改正 7.検討事項 〔国税〕
(9)税政の抜本的な改革を進めるに当たって、今後とも申告納税制度の円滑かつ適正な運営を確保してゆくためには、納税者と日常的に関わりを持つ税理士の果たすべき役割は非常に重要なものと考えられます。 税理士制度については、税理士の業務や資格取得のあり方などに関し、税理士を取り巻く状況の変化に的確に対応するとともに、税理士の資質の一層の向上など国民・納税者の税理士に対する信頼と納税者利便の向上を図る観点から、 関係者等の意見も考慮しながら、その見直しに向けて引き続き検討を進めます。

(6)税理士制度に関する勉強会における論点整理メモ
・平成24年6月28日 理事会において、税理士法改正特別委員会第二分科会より、「税理士制度に関する勉強会における論点整理メモ」(17項目)が報告された。
・検討経過:23年4月21日に発表した「税理士法に関する意見(案)」にある17項目について、3者勉強会で意見交換を行い、14回を数えた。 今後も引き続き勉強会を行っていく予定としており、さらなる論点が出てくることに留意する必要がある。したがって、この論点整理メモは、勉強会としての意見の集約を行ったものではない。
・意見提出:日税連HP税理士会会員専用ページに、「また、各税理士会において、平成24年7月末日を締切りとして、論点整理メモを踏まえた税理士会員の意見をお聞きいたします。 提出方法は、必ず単位会を通じてご提出ください。」との文章が掲載され、 891件の意見が提出された。

(7)税理士の資格取得制度のあり方(意見書)〜税理士法第3条第1項第3号及び第4号について〜
・日税連は意見募集と平行して今般の税理士法改正要望の柱と位置付けられる税理士の資格取得制度のあり方について、国民・納税者からの一層の信頼確保という観点から理論的な根拠を得るべく、 公益財団法人日本税務研究センター(以下日税研)に平成24年5月25日「税理士の資格取得制度のあり方〜税理士法第3条第1項第3号及び第4号について〜」に関する研究を委託した。
・日税研は有識者を中心とした資格取得制度研究会(会長:金子宏東京大学名誉教授)を設け、平成24年9月19日「税理士の資格取得制度のあり方(意見書)〜税理士法第3条第1項第3号及び第4号について〜」(以下意見書)を取りまとめた。
・意見書は、税理士法第3条第1項第3号及び第4号のあり方について、「税理士、弁護士、公認会計士となる国家による試験制度はそれぞれの職業専門家が国民の期待に応えるために実施されるものであり、 それぞれの専門性の習得を審査する目的と内容は、当然異なっていなければならないはずである(一部、重複する部分もある)。 本来、税理士試験、司法試験、公認会計士試験は、その目的も、方針も、したがって試験問題の内容も、出題の傾向も、異なっていて然るべきであるから、 それらの試験を受験する者が、それぞれ別異のものとして受験しなければならない制度として定立しておかなければならない。 一方の資格を有する者が、他方の資格をその試験科目の全部又は一部を受験することもなしに取得する制度は本則として(原則として)、許容さるべきものではない。 仮に、例外の許容を考えるとしても、それは原則に照らして狭義で厳格でなければならない。」としている。

4.税理士法に関する改正要望書
(1)平成24年9月26日
日税連理事会にて「税理士法に関する改正要望書」(18項目)を機関決定。

(2)検討経緯
意見提出、税理士の資格取得制度のあり方(意見書)等を参考として、税理士法改正特別委員会及び正副会長会等でさらに検討を重ね、新たに「税理士の信頼性の確保に関する規定」として 「税理士が行う租税教育への取り組みの規定整備」を追加し、計18の改正項目からなる要望書を取りまとめた。

(3)今後
「勉強会を継続して開催し、改正項目を整理したうえで、議員連盟の開催等による国会議員への説明、隣接士業との調整などを積極的に推進し、平成25年度税制改正大綱への記載及び平成25年度通常国会への法案提出を目指す。」としている。

5.経緯と結果
(1)平成25年度改正要望項目 ・平成24年11月12日 日税連は「税理士法に関する改正要望書(平成25年度改正要望項目)」(12項目)を発表。
・検討経過:9月26日理事会で機関決定した18項目の「税理士法に関する改正要望書」を、その後国税庁、主税局との協議の結果、その感触を踏まえ平成25年通常国会において実現可能な項目という視点から、 行政当局の了解を得て、池田会長のもとで、12項目を「平成25年度改正要望項目」として取り上げた。

(2)政権交代
・平成24年12月16日に行われた第46回衆議院総選挙の結果、自民党が圧勝。
・東京会は、税理士法改正を新政権に要望して行く必要があるとして、平成25年1月8日、税理士法改正運動総決起集会を開催、多くの会員の声を広く国会・立法府に働きかけることが税理士法改正を実現するためには不可欠と訴えた。

(3)与党税制改正大綱
・平成25年1月24日 自由民主党・公明党、「平成25年度税制改正大綱」
・「第三 検討事項」

(4)平成25年度税制改正大綱
・平成25年1月29日 閣議決定された政府の「平成25年度税制改正大綱」には、税理士法改正は、記載されなかった。

(5)今後の活動方針
・平成25年2月21日 日税連税理士法改正特別委員会(委員長=池田会長)は、法改正に向けた活動方針を協議した。
・今後の活動方針について池田委員長は、12の改正要望項目は維持するとしたうえで、国税庁、財務省主税局との勉強会を早急に開催して内容を精査するとの方針を明示。
・さらに、日税政の協力の下で自民・公明・民主各党の議員連盟に税理士法に関する勉強会の設置を求めていくことを明らかにした。
・また、資格取得制度のあり方については、引き続き日本公認会計士協会及び日本弁護士連合会に対し協議を申し入れていくとした。
・このほか会議では、4月から5月にかけて、各税理士会役員を対象に、税理士法改正に係る研修会を実施することを申し合わせた。法改正に係る各税理士会役員の理解を一層深め、改正の実現に向けたさらなる機運の高まりを目指す。

(6)平成26年度改正要望項目
・平成25年3月27日、日税連第4回理事会において、26年度改正要望12項目が発表された。
・内容は25年改正要望書と一箇所を除いて同じである。
・修正箇所は、25年「税務支援のうち税務援助への従事義務」→26年「経済的弱者に対する税務支援への従事義務化」
・税制改正大綱に3年続けて記載された「関係者の意見も聞きながら」をどう実現するのかも示されないままの発表に驚きを隠せない。また、この問題を解決しない限り、資格取得の改正はありえない。 資格取得問題を除いて、税理士に義務を課す規定がほとんどの残り11項目だけを通すのであろうか。

6.公認会計士会との話し合いと政治決着
(1)日税連、日税政によるリーフレットの作成
・平成24年5月23日、日税連、日税政は「税理士の資格取得制度の改正は、業際問題ではなく制度問題です。」とする「税理士法改正の必要性について」のリーフレットを作成、正副会長会で報告した。
・平成25年6月15日、日税連会報6月号より税理士法改正に関する連載を開始(10月号まで5回連載)、国民のための税理士制度確立のため税理士法改正の必要性を解説。
・6月26日、日税連第1回理事会は「税理士法に関する改正要望書」(平成 26 年度改正要望項目)にそった「税理士法改正の必要性について」のリーフレットを使った税理士法改正運動のお願いが日税連池田会長より行われた。
・7月24日、日税連及び日税政から単位税理士会及び単位税政連に対し、国会議員への陳情活動を行うように依頼。
・9月24日、日税連会長と日本公認会計士協会会長とのトップ会談(第2回)で、3科目受験から1科目受験へ
。 ・9月26日、日税連第2回理事会は、7/24示達に基づく各税政連の税理士法改正陳情(延436件)の実績を報告
・9月28日、日税連が日本経済新聞に税理士法改正に関する意見公告
・10月4日、伊吹衆議院議長、町村税理士制度議連会長、衛藤公認会計士制度議連会長、小川日税政会長、黒田日本公認会計士政治連盟会長の5者による会談

(2)平成25年10月23日正副会長会、税理士法第3条改正案
・10月11日、広島の日税連正副会長会で3条の公認会計士を8条に移行する事を決定。
・10月23日、日税連正副会長会において、「税理士法改正について」として、「法三条第一項第三号及び第四号並びに第二項を次のように改正する。」という改正案が示された。
・この3条改正案を今後税理士会の要望として提案していくことが正副会長会の賛成多数で決定した。

@ 改正案の内容
税理士法第3条第1項第3号及び4号を、弁護士には国税審議会が指定した会計学に属する科目の研修、公認会計士には国税審議会が指定した税法に属する科目の研修を終了した者、が税理士資格を有する。
また、税理士法第3条第2項、外国公認会計士が公認会計士になれるという規定を削除する。
A 改正案のポイント
・税理士試験合格でなく研修に
平成13年改正で、税務官公署における勤務経験により税理士試験の一部科目を免除する制度のうち、会計学に属する科目免除につながる指定研修につき、財務省令で定める要件を満たすもの、とされた。(法第8条1項10号の括弧書き)
この指定研修の平成25年度の税務官公署職員の受験者は1,616人、合格者は1,478人、実に 91.46%の合格率となっている。
税務官公署職員の税理士登録は減っているといわれているが、そのことと資格取得は別で、税理士試験と均衡に配慮しているとはとてもいえないのが実態だ。
OBの指定研修を踏まえて第3条の弁護士、公認会計士には税理士試験の合格を、とのことだったが、プロジェクトチームで提案され否定された試験でなく研修という提案に変更してしまう。
・第3条から第8条に移行しないことの意味
第3条は「次の各号の一に該当する者は、税理士となる資格を有する。」とされており、税理士となる資格を有する者を規定する税理士法の基幹とされる条文である。
第3条は、昭和55年の税理士法改正で「税理士の資格を有する者」の1号に「税理士試験に合格した者」となり、税理士の使命を担う者の原則は試験合格者と位置付けられた。
第8条は「次の各号のいずれかに該当する者に対しては、その申請により、税理士試験において当該各号に掲げる科目の試験を免除する。」とされている。
すると、弁護士、公認会計士は研修を受けることで税理士試験が免除されると考えると、研修は第8条で規定され、第3条を試験合格者、免除者だけにする整理を行うことできる。
このことにより税理士とは何かをきっちり定義づけることができ、第8条で国税審議官が試験免除の規定を検証することで、税理士法がわかりやすくなり、国民のための税理士制度に近づくことになると考えられる。
正副会長会でも「免除規定は税理士法8条規定すべきであり、3条に残すのはおかしいのでは。」との意見が出た。

・括弧書きの削除の意味
公認会計士と公認会計士の資格を有する者の違いは、公認会計士に登録するかどうかの違いである。
現行税理士法は、公認会計士に登録しないで税理士登録を認めている(第3条1項4号、括弧書き)。 この括弧書きを削除することで、公認会計士試験を受けて公認会計士の資格を有する者になった人が、公認会計士には登録せずに税理士登録だけをする制度のひずみを直すことができる。
・第3条2項削除の意味
TPPにより外国公認会計士が日本の公認会計士になる人が増える可能性がある。外国公認会計士が税理士となるのを防ぐため2項を削除するように提案した。

(3)公認会計士会との話し合い
・平成25年10月5日、第3条から弁護士及び公認会計士を削除し、第8条に移行、公認会計士については、所得税又は法人税の試験合格を必須とする、という提案を税理士会から行う。
・10月21日、公認会計士はその資格で税理士業務ができる旨の規定を設けること、とする公認会計士会からの税理士法改正提案。
・10月29日、上記、正副会長会改正案(10月23日)を公認会計士会に提案。この案なら公認会計士会の賛成を得られると踏んだ日税連だが、 「公認会計士の資格を有する者は税務においても専門家だ。」という公認会計士の意見に解決の糸口が見えず、公認会計士の資格取得問題を政治家に丸投げしてしまう。
・11月15日、下記確認書の案とほとんど同じものを税理士会から提案、財務省の指示とのこと。 ・11月22日、11月25日の会合を受け11月27日、合意案が成立。11月25日まで入っていた「国税審議会は当該研修について1年に1回以上の検証を行うこととする。」という税理士会からの提案を削除する形で合意。
・10月15日から11月27日までの会議の内容等の詳細は公認会計士会のホームページデで確認した。税理士会では公表されていない。
・この期間、税理士会の会員は蚊帳の外に置かれ、「26年度税理士法改正は暗礁に乗り上げた。研修なら今回改正しないほうがいい。 自動資格付与を廃止して、税理士業務には税理士試験の合格が必要だということ、それが国民にとって良いことだと訴えるところからはじめよう。」との意見が出ていた矢先、 11月29日に届いた知らせは、税理士法改正に係っていた多くの税理士を驚愕させる内容となっていた。 ・11月29日の連絡は「平行線のまま、政治決着を求めていましたが、両議連会長の斡旋で公認会計士会は町村議員の案を受諾しました。ただし、今後3条の改正要求は行わないことの協定調印条件付です。 池田会長の全責任において、協定調印を受諾したので、ご理解賜りたいとの連絡がありました。」との内容。
・「税理士法改正に向け全会員の一致団結を」と言い続けて来た日税連池田会長が、全国の会員にだけならまだしも、各単位税理士会の会長にも告げずに、税理士会会員が要望していた案と程遠い案を、 それも将来の制度改革を縛る条件付、事後承諾で調印してしまう。
協定調印の前に臨時理事会を開いた公認会計士会との根本的な姿勢の違いは、体質の違いでは片付けられない、会員に対する責任感、尊重度の違いであろう。
この姿勢の違いは、今改正案の経緯、内容につき、税理士が公認会計士会のホームページで情報収集をせざるを得ない状況にも現れている。

(4)12月3日 日税連と日本公認会計士協会が合意
日本公認会計士協会は、税理士法改正問題について日税連との間で合意に至り確認書を取り交わしたことを、「能力担保措置を阻止し公認会計士の国際標準を維持」という見出しで、同協会ホームページで12月5日に公表した。
@ 税理士法第3条改正案の内容
「税理士となる資格を有する公認会計士とは実務補習団体が実施する研修(実務補修)を受講したものをいう旨を税理士法に追加する」ことで日税連と会計士協会が合意した。 公認会計士協会によれば、「実務補習は会計士になるために必ず受講する研修であり、これまでどおり、公認会計士はその資格で税理士登録をすることができる制度が維持されるものとなっています。 すなわち日税連が求めていた、公認会計士が税理士登録をするに当たって追加的な能力担保措置を講じることを阻止したものになっており・・・」と述べている。
A 改正案のポイント
現行公認会計士試験合格者が税理士登録を行うには、税理士法第3条1項4号において公認会計士か公認会計士となる資格を有する者である必要がある。
いずれの場合も公認会計士試験に合格するだけでは登録要件を満たせず、2年以上の業務補助等と3年間の実務補修を修了、修了考査の確認を受ける必要がある。
今回の改正案は、公認会計士が税理士資格を取得するに当たって、公認会計士の資格以外の追加的な条件を付与することではなく、公認会計士登録をするまでの間に行われる実務補習を、 税理士試験合格者と同程度の学識を修得することができる研修として位置づけることにより、公認会計士の税務の資質を担保しつつ、実質的に現行の制度と何ら異動のないこととなる。
協会は、「当協会としては、『確認書』に記載の案は、実務補習を終了した公認会計士は税理士の資格を有するものであり、現行公認会計士法上、公認会計士は全員実務補習を修了する必要があることから、 同案は公認会計士の資格以外に追加的な条件が付されないことが法制度上担保されており、国際標準を逸脱するものではないと判断した。 また、この案においては、三として税理士法第3条に関して更なる見直しを求めないこととされたことも重視し、当協会としては、この案に合意することとした。」としている。
「確認書」以前の改正案は、公認会計士、公認会計士の資格を有する者に、税理士試験、又は研修を課すことにより資格を付与することとしていたが、今改正案は、公認会計士の資格を有する者になるために必要な研修を受講することを規定している。
さらに、公認会計士は公認会計士の行う研修を受けることにより税務の専門家になれることを認めたことになり、公認会計士会の主張する公認会計士の資格で税務業務を行えるようにする布石となる可能性がある。

◎参考 公認会計士の資格取得まで
公認会計士試験(短答式・論文式)合格
  ↓
業務補助等(2年以上) 実務補習(3年) ※ →実務補習団体等が行う研修(「税法」に関する研修 必須)
  ↓
修了考査
(実務中心の試験)
合格
  ↓
公認会計士となる資格を有する者  →税理士となる資格を有する
  ↓
公認会計士登録  →税理士となる資格を有する

公認会計士法(抜粋)
(実務補習)
第16条 実務補習は、公認会計士試験に合格した者に対して、公認会計士となるのに必要な技能を修習させるため、公認会計士の組織する団体その他の内閣総理大臣の認定する機関(以下 この条において「実務補習団体等」という。)において行う。

(5)確認書について
12月3日に日税連と協会の間で交わされた確認書は、全国7万人の会員に対し何ら説明もなく、日税連 池田会長、日税政 小川会長の独断で行ったもので到底容認できない。
また、確認書の第三項に「税理士法第3条に関して更なる見直しを求めない。」と明記されており、将来にわたり第3条改正を行わないことを約束したとも取れる内容が含まれており、以下の理由で到底容認することはできない。
・税理士法49条の11建議権の行使と明らかに矛盾
日税連、池田会長は日税連広報誌「税理士界」(平成25年12月15日)において、「税理士法には、税理士会は税務行政その他租税又は税理士に関する制度について、権限ある官公署に建議することができると規定しており、 本会は、毎年、法に基づく建議を行っております。」と述べている。
税理士法3条改正も税理士法上建議できると規定されており、確認書の内容と明らかに矛盾する。
・現在の執行部に未来に関する事項まで約束する権限はないのでは。
平成26年税理士法改正は、今選挙された執行部で行われるのであれば、会員に理解を求めることも可能である。しかし、将来の税理士法改正は、将来選挙された執行部に委ねるのが筋である。 筋が通らないことで、将来の制度改正を阻止する権限は現執行部にはない。
・会長一任は全権委任ではない
確認書は、会長権限を逸脱するとともに、機関決定された改正要望の範囲を超えるもので、到底容認できない。
・確認書を交わすことになった事は執行部の大汚点
確認書を要求されたこと自体、税理士法改正運動の失敗であり、行政府・立法府の税理士会に対する信頼性が失墜したことの現れである。

(6)各会の対応
@ 日税連
日本税理士会連合会の機関紙「税理士界」平成26年1月15日第1312号に、池田日本税理士会連合会会長が「税理士法改正に関する経過報告」として、 「今回の見直しは、実務補習団体等の実施する研修の中から、国税審議会が研修を指定することとされており、法制上は当該指定を受けない研修があり得る。 すなわち、公認会計士になれても税理士にはなれない者が出てくる余地が生じることとなる。このことから、公認会計士への自動資格付与は廃止と整理されたことになる」との見解を述べている。
しかし、この見解は国税審議会が実務補習団体の行う研修を指定しないこともありうると述べているわけで、指定しなかった年度は公認会計士の資格を有する全員が税理士の資格を有せなくなる。0%か100%の選択は実質ありえない。
また、今改正案が税理士資格取得に実務補習団体等の研修を受ける必要をあげていることを、外国公認会計士も当研修を受ける必要があると解して、 TPP対策として外国公認会計士の税理士会参入を防げたかに言う者もいるが、間違えた見解である。当研修は日本の公認会計士にかかるものであり、外国公認会計士の参入を防ぐには、第3条第2項を削除する必要がある。

A 公認会計士協会
日本公認会計士協会の森会長は「公認会計士の行う税務業務のあり方」という文で「我が国の税理士制度は、試験合格者、国税出身者、弁護士、公認会計士など様々な専門家の中から、納税者が選択できる仕組みとなっています。」と述べている。 また、「現行税理士法においては、公認会計士は税理士となる資格を有しているものの、税理士登録をして税理士会に入会しない限り税務業務ができない状態となっています。 公認会計士制度の歴史、公認会計士の能力、識見等、国際的な監査業務等への信頼の確保その他税務サービスの有益な提供等の観点から、公認会計士が税務の専門家であることを明らかとするためにも、 公認会計士の資格で税務業務を行えるようにすることが求められます。」と結んでいる。

(7)結論
平成26年2月4日、政府は税理士法改正案を含む「所得税法の一部を改正する法律案」を閣議決定、衆議院に提出した。
「税理士の資格」の改正案は、閣議決定した政府改正大綱のとおり第3条第3項として、「第1項第4号に掲げる公認会計士は、公認会計士法第16条第1項に規定する実務補習団体等が実施する研修のうち、 財務省令で定める税法に関する研修を修了した公認会計士とする。」と提案されている。
日税連は「自動資格付与がなくなる。」「外国公認会計士の税理士登録を防げる。」等の見解に対して、どうして丁寧に説明しないのであろう。どうして公認会計士会の独善的な見解に抗議をしないのであろう。
各税理士単位会、各税理士単位会の会員は、この改正案の決め方、改正案の内容にどうして抗議をしないのだろう。
政治家が絡んでいるから抗議ができない、というのは詭弁である。政治家と制度の問題は切り離して考えないといけない。正しいことを言い続ける方に政治も方向を向けることになる。 今意見を言うことで賛同者を増やし、資格取得問題は議員立法による法改正を目指す布石にする。
今回の法律案は、個別法としての改正案ではなく、税制改正の納税環境の整備として提案されており反対は難しいとする向きもあろう。 しかし、「公認会計士の資格」の部分だけを取り下げ、政治家にお願いした手前、責任を取って、日税連池田会長、日税政小川会長が退任する。 そこまでする必要があると考えるのは、将来の税理士会の命運はこの3条改正を取り下げることができるかどうかにかかっていると考えるからだ。
今回の改正案は、納税者の権利を擁護する使命を全うするため税理士試験を受験し合格する必要があるという制度問題を置き去りにしたものであり、国民のための税理士制度を実現するという本来の改正目的が何ら実現しないことになる。 今回の改正がこのような実質なにもかわらない形で行われれば、今後の資格取得制度のさらなる改正は今回以上に困難を要することが容易に想像され、将来にわたり根本的な問題解決の妨げにもなる。
この案を通さないことが、今できる最大の国民のための税理士法改正運動だと強く思う。

(8) 平成26年3月20日(木)、税理士法改正が実現
日税連の機関紙「税理士界」号外で、「税理士法改正が実現」「参議院本会議で可決・成立」「税理士制度の更なる発展につながる成果」と報道。

U.13年ぶりの平成26年税理士法改正

税理士法改正案を含む「所得税法の一部を改正する法律案」は、平成26年2月4日政府で閣議決定、衆議院に提出され、2月28日衆議院で可決、参議院に送付され、3月20日午後財務金融委員会で可決、 午後5時からの参議院本会議に緊急上程され、可決成立した。
税理士制度について、申告納税制度の円滑かつ適正な運営に資するよう、税理士に対する信頼と納税者利便の向上を図る観点から、税理士の業務や資格取得のあり方などに関し下記の見直しを行う、としている。

1.納税者利便の向上
・租税教育への取組の推進(税理士会会則の絶対的記載事項化)→法律改正項目
・調査の事前通知の規定の整備→法律改正項目

2.税理士業務の活性化・人材確保
・報酬のある公職に就いた場合の税理士業務の停止規程等の見直し→法律改正項目
・税理士試験の受験資格要件の緩和(職歴要件3年以上→2年以上)→法律改正項目
・補助税理士制度の見直し(所属税理士)→省令に委任

3.税理士制度の信頼性の向上
・公認会計士に係る資格付与の見直し(研修の受講)→法律改正項目
・税理士に係る懲戒処分の適正化(税理士業務の停止期間1年→2年)→法律改正項目
・懲戒免職等となった公務員等に係る税理士への登録拒否事由等の見直し→法律改正項目
・非税理士に対する名義貸しの禁止→法律改正項目

4.その他
・事務所設置の適正化(税理士会の登録調査権限の明確化)→省令に委任
・税理士証票の定期的交換→省令に委任
・電子申告等に係る税理士業務の明確化→通達で対応
・会費滞納者に対する処分の明確化→告示で対応
さらに、今回の改正で見送られた研修の義務化、税務支援への従事義務化についても、日税連は会則に委任し、会則違反にならないようにすることを持って努力義務、従事義務を強化する方針を打ち出している。

V.平成26年改正の総括

1.租税教育への取組の推進
(1)税理士会要望ではなく唐突に登場
今回の改正で財務省が、これを入れなかったら税理士法改正はやらせない、といった項目が、「租税教育への取組の推進」である。
租税教育は、平成23年度の税制改正案に「納税者権利憲章の制定や税務調査手続の見直しなど納税環境整備に係る諸課題が進展し、その一環としての租税教育の重要性も一層高まる中、 税理士の果たすべき役割は今後益々重要になっていくものと考えられます。」という形で登場。
税理士の資格取得制度のあり方(意見書)等を参考として、税理士法改正特別委員会及び正副会長会等でさらに検討を重ね、新たに「税理士の信頼性の確保に関する規定」として「税理士が行う租税教育への取り組みの規定整備」を追加し、 計18の改正項目からなる要望書を取りまとめ、平成24年9月26日、日税連理事会にて「税理士法に関する改正要望書」(18項目)を機関決定。
今まで税理士会で練ってきた改正案に付け加える形で要望項目に載ってきたのは、本来国がやるべき租税教育を肩代わりさせる目的では。なぜなら、税理士会の租税教育はすべて税務署からの要請で行われている。

(2)税理士にとって必要か、使命と合致するか
税理士法第46条6項には、「税理士会は、税理士及び税理士法人の使命及び職責にかんがみ、税理士及び税理士法人の義務の遵守及び税理士業務の改善進歩に資するため、 支部及び会員に対する指導、連絡及び監督に関する事務を行うことを目的とする。」と規定している。
すると、租税教育は「税理士の義務」ではないし、更に、「税理士業務の改善進歩に資する」ものではないので、税理士会の目的とはなりえない。
牛島訴訟の最高裁判決は、「法が税理士会を強制加入の法人としている以上、その構成員である会員には、様々な思想・信条及び主義・主張を有する者が存在することが当然に予定されている。 したがって、税理士会が右の方式により決定した意思に基づいてする活動にも、そのために会員に要請される協力義務にも、おのずから限界がある」として税理士会の活動を、税理士会の目的の範囲内に限っている。
このように、租税教育は税理士会の目的の範囲外であり、税理士会の事業になりえないことは、最高裁判決が明示している。
すなわち、租税教育は、本来文科省の職務であり、仮に税務当局からの要請があったとしても、税理士会が行う根拠がないことになる。
26年税理士法改正で租税教育に関する規定が定められたのは、上記からいって最高裁判決違反である。

(3)税理士会はどう対処すべきか
最高裁判決違反といっても、税理士法で会則の絶対的記載事項に規定された租税教育をどう対処するか。
とかく引用される群馬司法書士会事件(※)の最高裁において、群馬司法書士会が、司法書士会は国民の権利保全のための社会の公器であり、この公器の維持は、司法書士が制度として負っている責務である。 そこで、本件拠出金につき義捐金という性格を否定、司法書士制度を達成するための拠出金であり、それがゆえに会の目的の範囲内と主張し、それが社会的に相当と認められる応分の寄付の範囲内のものである限り、司法書士会の権利能力の範囲内にある、と受け入れられたことを援用することができると思う。 租税教育の事業を、社会的に相当と認められる応分の範囲内に縮小して継続させることができると考える。
そして、この事業継続の条件は、@ 教育の内容が徴税教育になってはならず、租税法律主義に基づいた、納税義務の適正な実現に寄与するものになっていること、 A 教育の専門家ではない税理士が行うので、積極的には行わず、教員に対して税理士の使命、応能負担原則などをレクチャーする形で行い、携わる会員を必要最小限度にとどめること、 B いますべての租税教育で行なわれている税務署の依頼に基づくのではなく、適切な機関から要請があった場合等、主体性をもって取り組むようにすべきである。
※群馬司法書士会事件(最高裁判決平成14年4月25日)
群馬司法書士会では、平成7年1月17日の阪神・淡路大震災により被災した、兵庫司法書士会に3000万円の復興支援拠出金(以下「本件拠出金」という。)を寄付することとし その資金は役員手当の減額等による一般会計からの繰入金と群馬司法書士会の会員から、登記申請事件1件当たり 50 円の復興支援特別負担金の徴収による収入をもって充てる旨の総会決議をしたところ、 群馬司法書士会会員が@本件拠出金を寄付することは、群馬司法書士会の目的の範囲外の行為であること、A 強制加入団体である司法書士会は本件拠出金を調達するため会員に負担を強制することはできないこと等を理由に、 総会決議を無効であって会員には本件負担金の支払義務がないと主張して、債務の不存在の確認を求めた事案である。

(4)租税教育、税理士法改正に至ったもう一つの考えかた
@ 租税教育の目的
申告納税制度の理念や納税者の権利及び義務を理解し、社会の構成員としての正しい判断力と健全な納税者意識を持つ国民を育成することを目的として、 日税連は 2003年に重点施策として「租税教育」を取り上げ、東京税理士会は同年「租税教育基本要綱」を制定した。 その後、平成23年度税制改正大綱を受け、租税教育推進関係省庁等協議会が立ち上がり、日税連は「租税教育等基本指針」を制定し、本格的に「租税教育」の活動が開始された。
2003年(平成15年)から開始された租税教室も、当初は全国で333件の実施に過ぎなかったものが、制度や環境の整備が進み、教育機関などの理解が進んだことで 2019年(令和元年)には12,482件の実施件数を数えるまでとなった。

A 租税教育における税理士の役割
税理士法第1条では税理士の使命を規定している。また税理士は租税に関する法令を熟知し、あるべき税制について国に対し建議できる専門的能力を有しており、一方で日常的に広く納税者に接し、納税者の良き理解者でもある。 従って税理士は独立した公正な立場で税の役割について指導すべき適任者であると言える。
つまり税理士は、教育関係者、行政機関などに租税教育等の充実を求め、啓発に努める社会的使命を担っていると言っても過言ではなく、また税理士自身が社会貢献の一環として租税教育等に積極的に取り組むことの意義を十分に自覚しなければならない。 このことは、無償独占という権利を賦与されていることに対する税理士の義務と考えることもできよう。
租税教育を通じて申告納税制度の維持発展に寄与することにより、広く社会に向けて国民の信頼に応え、納税者の期待に応えることができれば、申告納税制度と不可分の関係にある税理士制度の発展にもつながると「租税教育等基本指針」で謳っている。

2.会費滞納者に対する処分の明確化
(1)会費滞納者に対する処分の明確化の趣旨
改正前の会費滞納者(税理士が所属する税理士会、支部の会費を正当な理由なく長期にわたり滞納すること)に対しての処分は、税理士会が滞納会費(支部会費などを含む)の督促等一定の徴収手続(法的措置)を行っても、明確な処分ができなかった。
そこで、平成26年度税制改正の大綱(平成25年12月24日閣議決定)において、税理士制度見直しの中で「会費滞納者に対する処分の明確化」が掲げられたことを受け、 その点を告示(平成27年1月30日財務省告示第35号で改正)において明記することとした。
正当な理由なく長期にわたり会費を滞納し、それが税理士一般の信用又は品位を損なうと認められる場合には、法第37条(税理士の信用失墜行為の禁止)違反となり得るとの考えで、 法第46条の懲戒事由に該当することとなり、この場合の懲戒処分の量定は、法第46条及び告示の規定に基づき、戒告とされた。

(2)財務省告示
税理士に対する懲戒処分や、税理士法人に対する処分の基準・考え方については、「税理士・税理士法人に対する懲戒処分の考え方」として財務省告示に定められている。
告示の「T 総則」においては、@懲戒処分等の量定の判断要素および範囲やA税理士の使用人等が不正行為を行った場合の使用者である税理士等に対する懲戒処分についての考え方等が定められ、 「U 量定の考え方」においては、懲戒処分等の対象となる不正行為を例示し、その不正行為の類型ごとの量定の基本的な考え方が定められている。
なお、この告示は、平成27年4月1日以後にした不正行為に係る懲戒処分等に適用され、平成27年3月31日以前にした不正行為に係る懲戒処分等については、平成27年財務省告示第35号による改正前の告示が適用される。
すると、平成27年からの会費滞納分が処分の対象になるが、東京税理士会(以下「東京会」という。)の「会費を滞納する会員の処分及び懲戒手続きに関する規則」(平成27年6月15日制定)には、 「長期会費滞納者」に対し、税理士法第47条第2項の通知を行う手続きに関し、次のように定めている。
通知に付することが相当である旨の判断は、継続して5事業年度以上の会費を滞納しており、5回以上、1年間の会員権の全部の停止処分を受けていることとしている。
よって、最も早い戒告処分者が出るのは、平成27年分から令和2年分まで会費を滞納し、それが確定する令和3年3月31日以降となる。

(3)大臣処分の財務省告示で会費滞納を処分する問題点
第64回税理士分科会(平成26年6月23日)において会費滞納の懲戒処分について審議されたとき、会議に欠席した辻山委員より「会費滞納に対しては、本来は税理士会が対応すべきである。 それなのに大臣処分である告示に書くということは、税理士会は自主性とか自立性がない団体であることを公に示すのと一緒だ。そういうものは告示になじまないので書くのは大反対だ」との伝言があった。
それに対し木村委員は、「税理士会として、退会処分とかできるのであればいいのですが、法律上できないのです。」と発言。
岩崎文化会長も「税理士会は強制入会制度をとっており、税理士は会員にならないと税理士業務ができませんから、会としては、会から除名するのが一番の制裁になります。 会費を払わないことで会に対する迷惑をかけているので会が制裁するのは正しい方向だと思うのですが、退会処分、除名処分はできないので、間接的に行うしかないということですね。戒告ということでよろしいでしょうか。」と結んでいる。
また、「税理士法が改正されていないにもかかわらず、財務省告示で新しい行政罰を新設することは認められず、削除すべきである。」という意見には、 「会費滞納者に対する懲戒処分については、ご指摘のような新しい行政罰を新設するものではなく、正当な理由なく長期にわたり会費を滞納し、それが税理士一般の信用又は品位を損なうと認められる場合には、 法第37条(税理士の信用失墜行為の禁止)違反として、懲戒処分の対象になり得るものと考えておりますが、平成26年度税制改正の大綱(平成25年12月24日閣議決定)において、 税理士制度見直しの中で「会費滞納者に対する処分の明確化」が掲げられたことを受け、その点を告示において明記することとしたものです。 なお、会費滞納は税理士業務に直接関連しない事項であり、原則として税理士会の自治により解決されるべき事項であると考えており、会費滞納が生じたからといって直ちに懲戒処分の対象になるものではありません。」と答えている。

3.「税理士法3条3項における税法研修の指定」の具体的内容
(1)国税審議会の税法研修指定までの経緯
@ 公認会計士に係る資格付与の見直し
平成26年3月の改正税理士法においては、同法第3条第3項が新設され、平成29年4月1日以後に公認会計士試験に合格した者のうち税理士資格を取得できるのは、 公認会計士法第16条第1項に規定する実務補修団体等が実施する研修のうち財務省令で定める税法に関する研修を修了した者とされるとともに、当該研修は、改正税理士法施行規則第1条の3第1項において国税審議会が指定する研修とされた。
※税理士法第3条第3項
第1項第4号に掲げる公認会計士は、公認会計士法第16条第1項に規定する実務補習団体等が実施する研修のうち、財務省令で定める税法に関する研修を修了した公認会計士とする。
※税理士法施行規則第1条の3(税法に関する研修)第1項法第3条第3 項に規定する財務省令で定める税法に関する研修は、法第6条第1号に規定する税法に属する科目について、 法第7条第1項に規定する成績を得たものが有する学識と同程度のものを修得することができるものとして国税審議会が指定する研修とする。 第2項国税審議会は、前項に規定する研修を指定したときは、その旨を官報をもって公告しなければならない。これを解除したときも、同様とする。

A 第72回国税審議会
平成28年5月19日の第72回国税審議会税理士分科会で、見直しのポイントが会のように話し合われた。
・公認会計士法に定める実務補習が現状、公認会計士として業務を行うために必要な内容で構成されている。 改正法を踏まえ、国税審議会が指定する研修が、税理士試験のいわゆる税法科目の合格者と同程度の学習を修得できるものとなっているかどうかということで、その点をどう整理するか。
・実務補習における考査及び終了考査では、全科目を通じて6割以上の特典が取れていれば、税法科目が4割以上6割未満の得点であっても研修を修了することができるとなっているが、 税理士試験や国税審議会が指定する他の研修における試験の合格基準は6割とされている。例えば、終了考査の税法科目だけでも6割の得点を合格基準とできないか。
・合格基準を6割とすべきとの議論があるが、そもそも考査や終了考査の難易度がわからない。試験の難易度の把握や、税理士試験との同等性を確保する観点から、これらの試験問題を公表すべきではないか。
・他の指定研修では、毎年、研修の実施結果について国税審議会に報告しており、試験内容等を確認している。実務補習についても、透明性を確保する観点から、国税審議会が指定する他の研修と同じような仕組みにしてみてはどうか。

B 第74回国税審議会
平成28年6月3日の第74回国税審議会の税理士分科会で、第72回国税審議会税理士分科会の審議を踏まえ、事務局から「実務補習の充実策(案)」が提示され、これを踏まえて研修指定の枠組みについて審議を行った。
その結果、国税審議会としては、同案のとおり整備が行われた後の実務補習における税法に関する研修を税理士法施行規則第1条の3第1項に定める税法に関する研修として指定するとの方向で一致した。 そして、今後、日本公認会計士協会等において実務補習について所要の規程の改正等が行われたと認めたときは、当該研修を税理士法施行規則第1条の3第1項に定める税法に関する研修として指定し、その旨を速やかに官報に掲載すると決定した。

(2)「国税審議会が指定する税法に関する研修」の具体的内容
@ 実務補習の充実策等
税理士法第3条第3項及び同法施行規則第1条の3第1項(いずれも平成29年4月1日施行予定。以下同じ)の規定に基づいて国税審議会が指定する税法に関する研修は、 公認会計士法第16条第1項に規定する実務補習団体等が実施する実務補習における税法に関する研修で、以下の整備が行われた後のものとする。
〇考査
その修得が実務補習の修了要件の一つとされ、また、終了考査の受験要件の一つにも位置付けられている考査について、次の措置を講ずる。
(イ)税法関係の考査(2回分/全10 回)について、透明性向上等の観点から、(現状、補習所によって異なる試験日や試験問題を統一化した上で、)試験問題(過去5年分)を日本公認会計士協会又は会計教育研修機構のホームページ上に公開する。
(ロ)考査の合格基準に、(現行基準に加えて)「重要な科目については6割以上」との基準を追加した上で、税法科目を「重要な科目」の一つに位置付ける。
(注)追加の基準については、税法関係の考査に係る全体の得点について適用する。
〇終了考査
終了考査について、透明性向上等の観点から、試験問題(過去5年分)を日本公認会計士協会のホームページ上に公開する。
(注)出題内容に関しては、引き続き、総合問題も含めた出題とするなど、税目のバランスにも配慮したものとする。
国税審議会は、今後、公認会計士試験に関する制度改正に伴う実務補習の内容・質の著しい変更等、実務補習の制度又は運営に関する重大な事情変更が発生した場合には、指定対象である実務補習の枠組みに関し、 同実務補習により税理士法第3条第3項及び同法施行規則第1条の3に定める学識と同程度のものが習得できるものであるかどうかについて改めて確認を行う。
上記の実務補習の制度又は運営に関する重大な事情変更の有無を確認するため、国税審議会は、毎年の実務補習の状況(修了考査及び考査の試験概要、試験問題、及び試験の実施状況に関する各種計数)について、 日本公認会計士協会より報告を求めることとする。

A 実務補修団体等の実務補習規程の改正
今般、実務補習団体等である日本公認会計士協会及び一般財団法人会計教育研修機構は、実務補習の充実策等についての国税審議会決定事項(平成28年6月3日付)に基づき実務補習規程等を改正した。(平成29年11月1日施行(注))
なお、実務補習規程等の関係規程の改正の主なポイントは、以下のとおりである。
・実務補習の充実策の一環として、監査科目だけではなく、税法科目も重要な科目と位置付け、考査の合格基準について従来の税法科目の考査2回で各回4割以上の取得に加え、税法科目全体で6割以上の取得を設ける。
・税法科目の考査2回については全国統一問題で同一日時に実施する。
・実務補習の考査及び修了考査の問題をウェブサイトで公表する。
(注)改正した実務補習規程等は、公認会計士試験合格年次にかかわらず、平成29年11月1日以後に実務補習所に入所する補習生(再入所を含む)から適用となる。 なお、施行日前に実務補習所に入所した補習生(施行日以後に実務補習所に再入所した者を除く)については、改正前の規定が適用される。

B 税法に関する研修の指定の広告
「国税審議会は、当該整備のための所要の規程の改正等が行われたと認めたときは、当該研修を指定対象研修として指定し、税理士法施行規則第1条の3第2項の規定により、その旨を速やかに官報に公告する」 という国税審議会決定事項により、実務補習規程の改正を受けて、次のように官報に掲載した。

【平成28年6月4日付 官報 第6803号】
税理士法施行規則第1条の3第1項に規定する税法に関する研修の指定の広告
税理士法施行規則(昭和26年大蔵省令第55号)第1条の3第1項に規定する税法に関する研修を次のとおり指定したから、同条第2項の規定により公告する。
なお、本指定は、平成29年4月1日から適用する。
平成28年6月16日
国税審議会会長  岩崎 政明
公認会計士法(昭和23年法律第103号)第16条第1項に規定する実務補修団体等が同項に規定する実務補習として実施する税法に関する研修

(3)当該改正の結果
国税審議会は、法令上、研修を指定し又は解除することとされており、これを踏まえれば、今後、指定の妥当性について適切なチェック機能を果たす必要があるが、他方で、指定の妥当性について毎年検証することまでは法令上求められていない。
そこで、実務補習の制度又は運営に「重要な事情変更」がある場合について改めて指定の妥当性について確認を行うこととし、日本公認会計士協会より報告を求めることとした、と述べている。
しかし、この改正により、公認会計士になれて、税理士になれない人は存在しない。公認会計士の「修了考査」の前の「考査」の税法に関する研修を指定しているので、これが6割とらなければ終了考査が受けられず、公認会計士になることができない。
つまりこの改正は、当初から指摘しているように、税理士になれないようにする改正ではなく、税法に、ちょっとましな公認会計士税理士を作るだけの、お茶を濁すガス抜き改正である。
まして、指定する研修が税理士試験合格者と同等の学識を習得できるとされているので、自分たちはこの研修を受けているので、税法でもプロだ、と言い出し、果ては公認会計士の名前で税務ができるようにしろ、と言い出しかねない。
だが、もう元は取ったので、そんなことは言わずに、公認会計士試験を受けて税理士になる者を輩出し続けるだろう。
果ては納税者の権利などはまったくできなくなる。租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図るためには、税理士になるための試験を受け合格する必要がある。

W.税理士制度の展開(北野弘久著 税法学原論・税理士制度より)

1.あるべき税理士制度
(1)税理士と税法学
現代的租税概念を前提にして、日本国憲法のもとでは、租税の使途面をも射程に入れた納税者基本権が成立する。
税法学は納税者基本権について、具体的・体系的研究を意図する学問といってよい。税理士は税法学という学問を実践する職業専門家でなければならない。
あるべき税理士の究極的使命は、税法学の実践を通して、納税者の諸権利を具体的に保障すること、すなわち平和・福祉目的の日本国憲法の「憲法保障」装置となることである。

(2)税理士法1条の公正な立場
先に税理士は税法学を実践する職業専門家であると述べた。このことから税理士法1条を理解することが重要である。
税務の専門家とは、会計学・経営学等に精通した税金問題の法律家・弁護士。
独立した公正な立場とは、法の解釈や事実認定において「公正な立場」に立って対処するのは当然、課税庁と距離を置き、納税者の代理人として、税法問題に向きあう職業専門家の立場と解すべきである。
申告納税制度とは、租税国家における主権者である納税者が、主権的権利として、自己の納税義務額を第1次的に確定させる権利をもち、課税庁は納税者の納税申告を待って、 第2次的に是正する補完的な地位をもつことを意味する。このような「申告納税制度」の理念を実現するよう努めることが使命とされる。

(3)予防法学
税金問題の法律家として、予防法学の重要性を認識し、クライアントの法的リスクを未然に防止するため事前の的確な助言などが必要である。

(4)訴訟補佐人
平成13年改正により、税理士による訴訟補佐人制度が実現した。この補佐人制度が民訴法60条の特例という位置づけであるなら、ことさら「陳述」に限定せず「尋問」を含むものとして運用されるべきであり、このことを明文化すべきである。
さらに、本人訴訟の補佐人、税務訴訟の訴訟代理権を目指し、税理士の能力向上と税理士制度の改善が望まれる。

(5)その他の税理士の業務
税理士業務(2条1項)は無償独占業務と解されているが、申告納税制度の趣旨を踏まえ、法律家として税理士の法的地位を高めるためにも、有償独占業務とする事を考えるべきである。
税理士の行う経営助言業務を2条2項業務と同じように、明文規定が望ましい。

(6)税理士顧問契約の法的性格
顧客と税理士の間の顧問契約は、民法上の委任契約と説明されてきた。民法 651 条によれば、委任は当事者がいつでも解除することができると規定する。
しかし、民法の委任は無報酬が基本であると考えられる(民648参照)。報酬の受領を建前とし、高度の公共性等の特殊性をもつ税理士顧問契約の実体に適合しない。 学説判例の動向は、事務処理の委任者のみならず受任者の利益をも目的とする委任には、651 条の適用がないとの考えを示している。
税理士顧問契約は民法上の一種の無名契約であり、税理士法上の特殊契約として更正されることが望まれる。

(7)税理士法人
税理士業務を組織的に行う目的で創設された税理士法人は、旧商法(合名会社)、現会社法(持分会社)の無限責任社員規定が準用されている。
税理士法人にも、弁護士法人の指定社員と同じような制度の導入の検討が望まれる。また、人的規模の合理的な規制が必要ではないか。

(8)税理士会
税理士の法的地位を確実なものにするため、税理士に対する懲戒権を税理士会がもつように改めなければならない。
また、日本税理士会連合会は、各税理士を構成員とする、日本税理士連合会に改められるべきである。

2.税理士の責任
(1)懲戒の種類
税理士法は、税理士法及び税法に違反した税理士を、懲戒処分に付すことを規定している。(税理士法44 条―48条)
・戒告
・2年以内の税理士業務停止
・税理士業務の禁止

(2)税理士の禁止行為
脱税相談等の禁止(36条)、名義貸しの禁止(37条の2)、秘密を守る義務(38条、54条)に違反した場合、税理士法の懲戒処分に付されるほか、罰則規定(58条、59条)による刑事罰が適用される。 このほか業務の制限、停止の規定に反した場合も同様である。

(3)税理士の善管注意義務
税理士に債務不履行又は不法行為があった場合、損害賠償の責任を問われることがある。税理士には善良なる管理者の注意義務が求められるが、それは一般人とは異なる、専門家としての高度な善管注意義務とされる。

X.金子宏氏、特別寄稿文論

ここに税理士制度70周年記念誌「過去に感謝未来に責任」より東京大学名誉教授の金子宏氏が特別寄稿された論文を紹介する。
「税理士法1条は、税理士の使命として、独立した公正な立場で、申告納税制度の理念にそって、納税義務者の信頼にこたえ、租税法令が定める納税義務の適正な実現を図ること、と定めている。
すなわち、この規定は、簡単に言えば、税理士の基本的役割は納税義務の適正な実現を図ることである旨を定めているわけであるが、そこからは、次の二つのことがいえると考える。
第一に、この規定は、憲法30条の『国民の納税義務』の規定を受けて、@租税が国のあらゆる活動の資金であり、租税収入がなくなれば国民に対する公共サービスの提供が不可能になってしまうという意味で、 租税は国家にとって必要不可欠な財源であること、および、Aわが国が国民主権主義の理念に沿って申告納税制度、すなわち主権者である国民自らが自己の税額を計算してそれを申告し納付する制度を採用していること、にかんがみ、 税理士は、依頼人である納税者が租税法令に定められているとおりの正しい申告と納付をするよう全面的に助言し、協力する義務を負っている旨を定めていると解すべきである。 なお、この規定が、税理士は納税者の脱税行為や半倫理的行為に対しては、断固として反対すべき旨を含意していると解すべきことは、いうまでもない(なお、36条参照)。
第二に、この規定は、同時に、憲法 84 条の租税法律主義の規定を受けて、税理士は、依頼人である納税義務者が違法な課税をされることのないように、その権利・利益の保護に努める義務がある旨をも定めていると解すべきであろう。 というのは、@この規定は、税理士が専門家として独立・公正な立場で業務を行うべきことを定めているが、独立・公正という言葉には、租税行政庁の見解にも納税者の見解にもとらわれることなく、 自らが正しいと考えるところに従って、という意味が含まれていると解することができるし、また、A『租税に関する法令に規定された納税義務』という表現と、それに続く『適正な実現』という表現とを合わせて見ると、 この規定は、租税法律主義の考え方を表明した規定であると解し得るからである。 したがって、税理士は、課税が違法であると考える場合には、納税者にその旨を知らせ、納税者の求めに応じて適切な対応を助言すべき旨を含意していると解することができる。
このように考えると、税理士法1条は、税理士の基本的役割として、正しい納税義務の実現と、納税者の権利・利益の保護の二つを合わせて規定していると解してよいと考える。
納税者の権利・利益の保護が税理士の役割であることは、不服申し立てに関する代理が税理士の業務の一つとして規定されていること(税理士法2条1項1号)からも明らかである。 現行税理士法の制定の基礎となったシャウプ勧告でも、異議申立て(protests)及び審査請求(appeals)の代理は、当然のこととして税務代理士の業務の範囲に含められていた。
もっとも、納税者の権利・利益の保護といっても、税理士の場合には、補佐人制度を除いて、その範囲は税務行政手続(税務署との交渉、異議申し立て、審査請求の代理等)に限定されていることに注意する必要がある。
以上のように、依頼人である納税者の権利・利益の保護が、税理士の基本的役割の一つであることは、現行税理士法1条の解釈論として認められるところであるが、それをより明確にするためには、 税理士法の改正の際にその旨を1条の中で明定することが望ましいと考える。


税理士法改正2014年(平成26年)改正以降

T 2014 年(平成 26 年)改正以降の税理士法改正検討経過

1.税務行政の将来像
国税庁は、「税務行政の将来像〜スマート化を目指して〜」を2017年(平成29年)6月23日に発表し、税務行政の将来像を 「具体的には、ICT やマイナンバーなどの活用によるデジタル化を推進し、税務相談や申告・納付の手続きをスムーズかつスピーディなものにするなど、納税者の利便性の向上を進めていくことが一つの柱です」としている。
また、税務相談の自動化として、「納税者の利便性向上の観点から、メールやチャットなどを活用して、税務当局と納税者等との相談チャンネルの多様化を図っていくことが望ましいと考えています。 また、相談内容をAI が分析することにより、システムが自動的に最適な回答を行うようになると考えられます。 さらに、納税者からの評価を同時に受けることで、税務相談への回答内容がより適切なものになるとともに、相談時間の短縮につながるものと考えられます。」としている。なお、税務行政の将来像には、税理士の役割は一言も触れられていない。

2.「次期税理士法改正に向けた検討について」(諮問)
神津日税連会長は、2017年(平成29年)9月19日、日本税理士会連合会(以下「日税連」)制度部に「次期税理士法改正に向けた検討について」諮問した。
神津会長は、制度部から報告された、「『あるべき税理士制度の構築に向けた制度部意見』(平成29年6月12日)において重視された 『次世代を担う若年層にとってさらに魅力ある制度として将来にわたり維持・発展を図るとの観点』から、これら税務行政の将来像及び納税環境の変化等を加味し、 まず、税理士業界未来予想図ともゆうべきものを想定したうえで、現在から近未来につなげていける税理士制度について検討していただきたく、諮問致します」としている。

3.「次期税理士法改正に関する答申」
−時代の変化に対応し、未来を創る制度の構築に向けて−
(1)概要
上記諮問を受けて日税連制度部は、2019年(平成31年)4月17日、「次期税理士法改正に関する答申−時代の変化に対応し、未来を創る制度の構築に向けて−」(以下「答申」)を公表し、税理士会員に意見募集を行った。
答申について日税連制度部は、「働き方改革の影響や第4次産業革命の進展がもたらす経済活動の変化を見据えつつ、税務行政の将来像及び納税環境の変化等を踏まえながら、税理士制度に関し将来想定される問題点の検討を行い、 近未来における税理士制度のあり方について論点を整理し、現時点における当部の議論を取りまとめたものである。」としている。

(2)内容
@ ICT 化への税理士法の対応
・税理士法第33条において、電子的に行う税理士の署名押印について明示すること。
・税理士が電子申告の代理送信を行う場合には、税理士資格を有することの証明を義務付けること。
・納税者との委嘱関係及びマイナポータル上の代理について、常に明確にできるようにすること。

A ICT化社会における税理士事務所のあり方
・税理士事務所における内部規律や内部管理体制を整備し、テレワークに関する指針を設けること。

B 税理士法人への対応
・税理士法人に関する運営の更なる t 駅成果に資するべく、税理士法人に対し定期的な倫理研修の受講義務を課すこと。
・税理士法人の業務範囲について、税理士が法令等に基づき専門的知見を活用して個人として行っている租税教育への講師派遣や成年後見業務などの公益的業務を含めること。
・社員税理士の法定脱退事由として、業務停止処分を明記すること。

C 試験制度のあり方
・学識による受験資格要件を見直すこと。

D 平成26年法改正における未実現項目の取扱い
・税理士となる資格を有する者は、税理士試験に合格した者を原則とすること。
・税理士職業賠償責任保険への加入を義務化すること。
・財務大臣の日税連・税理士会に対する総会決議取消権は見直すこと。

E 業務の適正化に向けた環境整備
・登録時研修及び定期的な倫理研修の受講義務を課すこと。
・税理士に対する指導、連絡及び監督をより徹底すべく、開業税理士及び税理士法人に所属税理士及び社員税理士が会則順守義務を履行できるよう協力義務を課すこと。
・比較広告等を行う周旋業者の利用に関する指針を設けること。

F 引き続き検討を要する項目
・税理士の使命の見直しの必要性
・その他、今回の答申項目とされなかったもの
→AI を利用した税務相談
→税理士業務における将来的税務相談の位置づけ
→試験制度の見直し
→登録要件である2年間の実務経験に代わる実務修習制度の導入
→資格の更新制度の導入
→一人税理士法人制度の創設
→社員税理士の無限連帯責任の見直し

(3)意見募集
答申に対する税理士会員への意見募集は、2019年(令和元年)5月13日から同年11月30日までの間に、1182人の会員から延べ2万667件の意見が寄せられた。
日税連制度部では、今回の意見募集結果及び各税理士会から寄せられた意見を参考に検討を進め、加速する社会情勢の変化への対応が遅れることのないよう危機感を持ちながら、制度改正を実現してまいりたい、としている。

4,税理士法改正のコンセプト
2020年9月25日の日税連理事会において、総合企画室税理士法改正分科会から、税理士法改正のコンセプトが報告された。10月7日の東京会理事会でも、神津日税連会長から年末の税制改正大綱に盛り込まれる予定として下記内容が紹介された。
(1)ICT化とウイズコロナ時代への対応
納税者利便の向上を図り、税理士が今後も電子申告・納税の普及推進の中心的役割を果たすことを明確にするとともに、税務代理の範囲を見直し、税理士業務のICT化を強力に推進する。
日税連、税理士会の事務の電子化を推進するための改正を行う。

(2)多様な人材の確保
多様化する業務に対応するため、多様な人材(若年層や法律学又は経済学以外を修めた者)が税理士試験を受験できるよう受験資格の見直しを行う。
(3)税理士に対する信頼の向上を図るための環境整備
税理士法人は、納税者ニーズの多様化、賠償リスクの増大、税理士業務のICT化といった変化に的確に対応し、税理士業務を委嘱者である納税者に安定的かつ継続的に提供するものとして役割が高まっており、 今後もさらに公益性の高い業務を担うことが求められていることから、その業務範囲の拡充を図る。
その一方で、税理士業務に対する信頼を確保する観点から、税理士を使用する税理士又は税理士法人に対して、使用される税理士の会則遵守に協力するための環境整備を行う。

5.令和3年度税制改正大綱
2020年(令和2年)12月10 日に公表された、自由民主党・公明党の「令和3年度税制改正大綱」に、下記のように税理士法改正が掲載された。

令和3年度税制改正大綱 令和2年12月10日 自由民主党・公明党
第三 検討事項
8. 税理士制度については、ウィズコロナ・ポストコロナの新しい社会を見据え、税理士の業務環境や納税環境の電子化といった、税理士を取り巻く状況の変化に適格に対応するとともに、 多様な人材の確保や、国民・納税者の税理士に対する信頼の向上をはかる観点も踏まえつつ、税理士法の改正を視野に入れて、その見直しに向けて検討を進める。

6.東京税理士会制度部
2021年(令和3年)1月19日の東京税理士会(以下「東京会」)理事会において、日税連制度部が平成31年4月に公表した「次期税理士法改正に関する答申」のうち、「引き続き検討を要する項目」について、 東京会制度部において議論し検討した結果、以下の通り意見の取りまとめをおこなった、と発表があった。
(1)税理士の使命の見直しの必要性
税理士法第1条(税理士の使命)に、納税者の権利利益の擁護について明記すること。

(2)AIを利用した税務相談
AIを利用した税務相談が税理士の独占業務である税務相談に抵触する恐れがあるので、税理士法上の関連を検討する必要がある。

(3)税理士業務における将来的税務相談の位置付け
税理士業務における将来的税務相談(将来的税務相談とは現実の納税義務を伴わない、将来的な課税要件事実の発生を前提とする個別の税額計算等に関する事項の相談のことをいう。 例えば相続税の事前相談のようなもの。)は税務相談そのものといえるので、将来的税務相談は「税務相談」とみなすべきである。

(4)試験制度の見直し
現在、日商1級合格となっているところを、日商2級合格に軽減するなど受験資格を緩和すべきである。 また、簿記論と財務諸表論を合わせて会計学として1科目にし、税法の選択科目に国税通則法を入れ、酒税法は除外し、固定資産税は地方税の選択科目の一つとするなど試験科目の見直しもすべきである。

(5)登録要件である2年間の実務経験に代わる実務補習制度の導入
実務修習制度は現状では導入すべきではない。

(6)資格更新制度の導入
資格の更新制度は導入すべきではない。
更新要件として@会費納入義務A研修受講義務B税務支援従事義務の履行などがある。しかしこれらは支部により考え方にも格差があり会則上の免除規定もある。更新要件の適正性については慎重かつ充分な検討が必要である。

(7)一人税理士法人制度の創設
一人税理士法人を制度化する必要はない。
税理士にとって税理士法人化することは、@事務所経営、職員雇用の安定化、A事業承継が容易、B税理士報酬の支払いに対する源泉徴収義務がないなど、メリットが大きい。 一方で、本来の創設目的にあった納税者のために、ということを考えると、一人税理士 法人がその目的を果たせるのか疑問である。ゆえに一人税理士法人の制度化は必要ないと考える。

(8)社員税理士の無限連帯責任の見直し
社員税理士の無限連帯責任については、現行制度を維持すべきである。

U 電子化の流れ

1.電子申告
・2004年(平成16年)に電子申告運用を開始
・2018年(平成30年)度税制改正により、資本金等が1億円を超える法人は、電子申告が義務化された。(2020年・令和2年4月1日以後に開始する事業年度から適用)
・電子申告義務化の措置が中小企業にも制度化されることが予想される。
・このような傾向に着目すると、政府が次に狙うのは、帳簿記帳の原則に対する転換である。

2.電子帳簿保存法
(1)紙から電子への問題点
企業等の業務は、従来紙を中心に行われてきた。ところが今や、行政手続きの電子化の要請で、紙を中心とする業務から電子データを中心とする業務に変わりつつある。
そこで業務で取り扱う国税関係帳簿、国税関係書類、電子取引情報について情報の取り扱いと保存が問題になってきた。 なぜなら、紙の情報の場合、現物の確認が容易で改ざんの危険性も少なかったが、電子データの場合、データを再現する機器が必要になり、紙と比べてコピーや改ざんが容易になるからだ。

(2)電子帳簿保存法の創設
紙媒体から電子媒体への変遷において、1998年(平成10年)、各税法で原則紙での保存が義務づけられている帳簿書類を、プリントアウトせずに、 作成した電磁的記録(電子データ)のまま保存することを可能にするため及び電子的に収受した取引情報の保存義務等を定めるために 「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方式等の特例に関する法律(以下「電子帳簿保存法」という。)」を創設した。
この制度によって、膨大なデータを取り扱う規模の大きな企業は、保存義務のあるすべての帳簿書類を紙媒体により出力し、納税地等にて法定期間保存するという、非現実的なことから解放された。

(3)電子帳簿保存法の改正
条件を満たした事業者に、帳簿や書類を電子データで保存することを認める電子帳簿保存法は、その条件が厳しく普及が遅れていたが、2021年(令和3年)度の税制改正において、 納税環境整備の一環として電子帳簿保存法の改正が行われ(2022年・令和4年1月1日施行)、すべての帳簿並びに証憑等を電子保存することが可能になった。
改正法では、税務署長の事前承認制度が廃止になり、優良な電子帳簿に係る過少申告加算税の軽減措置が整備された。また、電子データの保存要件が緩和され、 最低限の要件を満たす電子帳簿についても、電磁的保存が可能になり、スキャナの読み取りにスマホでの撮影が加わり、原本の保存も不要になり、金額の上限が撤廃され、白黒画像も認められ、電子証明は不要になった。

(4)電子帳簿保存法、2020年(令和3年)度改正の問題点
今回の改正で、事前確認制度が廃止されたことにより、要件を充足した方法で電子データを保存しているかどうか明確でなくなってしまったという問題が生じた。
すると、2022年(令和4年)1月から、メールでの請求書など、電子取引のデータ保存が全事業者に義務付けられる、とする捉え方もありうる。
すなわち、事前確認制度がなくなることで、法定要件を満たした保存の確認は納税者自らが行わなくてはならなくなるため、データ保存の方法について慎重に検討する必要が出てくる。 また、「申告所得税及び法人税における電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存義務者が行う当該電磁的記録の出力書面等の保存をもって当該電磁的記録に代えることができる措置は、廃止する」で、 所得税・法人税の観点から、電子取引情報の「書面出力」による保存が認められなくなったことも問題である。

3.電子インボイス制度
(1)インボイス制度で必要な書類
2025年(令和5年)10月1日開始予定であるインボイス制度導入後の「適格請求書(インボイス)」は、「その税額を仕入税額控除として差引することができることを証明する書類」とされており、 税務署に申請して登録番号をもらい、「適格請求書」の発行事業者として登 録された事業者の発行する請求書、領収書等となる。
そして、適格請求書が保存(7年間)されていることが「仕入税額控除」の要件となる。 つまり、自分で計算した消費税額も、調査等で保存されている適格請求書を調べることで、税額が変わってくる。

(2)適格請求書発行事業者登録制度ポイント
@ 登録番号付与
新たに適格請求書発行事業者登録制度が設けられ、登録番号が付与され、事業者名や登録番号などがインターネットで公表されること。

A 適格請求書(インボイス)等の保存
新制度では、仕入税額控除のためには、適格請求書(インボイス)等の保存が要件になること。(これまでどおり、「帳簿の保存」も必要である)

B 適格請求書に「電磁的記録」追加
適格請求書に「電磁的記録」のものも追加されること。(このことから、現在は「電磁的記録」は保存しなくとも仕入税額控除ができるが、新制度では「電磁的記録」についても保存義務が生じること)

4.電子インボイス(白鴎大学名誉教授・石村耕治・電子インボイスの落とし穴より)
(1)新消費税法
登録制度のポイントにもあるように、新消費税法では、適格請求書(インボイス)は、書面での交付に代えて、書面に記載すべき事項が網羅されていれば電磁的記録/データ(電子インボイス)で提供することも認められる。

(2)電子インボイスとは
「電子インボイス」とは、インボイスを電磁的記録(電子データ)で提供し、ネットワーク上で管理する仕組みである。
なお、電子インボイスは、電子帳簿保存法に定義される「電子取引」にあてはまる。 現在、事業者は、電子インボイスについてはこれを保存していなくとも仕入税額控除が受けられる。 現行の消費税法では、仕入税額控除の要件として「請求書等」の保存が必要である。

(3)適格請求書発行事業者登録制度の問題点
新たな適格請求書発行事業者登録制度のもとでは、仕入税額控除を受けるには、発行側も受領側も、基準期間中、電子インボイスを電子帳簿保存法の規定に基づいて保存する義務が生じる。
このため、電子インボイス制度を採用する事業者と取引をする事業者は、仕入税額控除を受けるためには、基本的に、税務会計業務をデジタル化し、電子帳簿を導入せざるを得なくなる。
消費税の電子インボイスの場合、「第 7 項に規定している請求書等とは、次に掲げる書類及び電磁的記録をいう。」としており、電子インボイスの保存が仕入税額控除の要件とされている。
なお、電子インボイスについては、「当該電磁的記録を出力することにより作成した書面(整然とした形式及び明瞭な状態で出力したものに限る)を保存する方法によることができる」としている。
一応、消費税施行規則で、電子インボイスは「書面」で保存してもOKといってはいる。しかし、電子インボイス制度を導入している企業・事業者と取引する事業者は、遅かれ早かれ電子インインボイス制度を導入せざるを得ないであろう。
このように、消費税上の仕入税額控除を受ける要件となる適格請求書(インボイス)に「電磁的記録」を追加することは、中小零細事業者の仕事とくらしの継続を著しく難しくする。 零細中小事業者は、膨大なデジタル化投資に加え、過酷な税務コンプライアンスを押し付けられ、生業を圧迫される。起業家育成の面でも大きな障害になるはずだ。
事業者、とりわけ個人事業者の氏名や登録番号等の情報をインターネットで公開するのも、人格権の侵害につながる怖れがある。
いずれにしろ、前段階控除型の付加価値税である消費税における仕入税額控除は、事業納税者の権利である。この権利がデジタル化でむしばまれることがあってはならない。

5・電子インボイスの担い手は?
(1)韓国のインボイス制度
国の目論む電子インボイスの担い手を考えるとき、現在電子インボイス、記入済申告書まで施行されている韓国の電子インボイス制度の歴史が参考になる。

〇導入時の紙インボイスから電子インボイスへ
韓国のインボイス制度は 1977 年、付加価値税が導入されると同時に採用されている。 当時のインボイスは紙によるものであり、取引ごとに売上げのインボイスを発行し、仕入れのインボイスを貰って保存し、納税者はインボイスを集計して納税申告を行った。 これは納税者に相当の事務負担をもたらしたが、一方、税務当局は申告書とともに膨大な量のインボイスを集め、国税庁のパソコンに入力することになった。 国税庁は「電算室」を設け、何千人もの人手により入力をしなければならなかった。
その後、IT 技術の発達とともに紙のインボイスとともにインボイスのデータが入力されたフロッピーディスクを提出する時期が続いた。これには税務士の協力が不可欠であった。 2001年7月に国税庁が電子申告制度を導入すると同時に、インボイスそのものの提出はなくなり、その代わり、売上及び仕入に係る明細書を電子申告によって提出する方式に変わった。ここでも税務士の協力は欠かせなかった。
2011 年から電子インボイス発行制度が施行され、すべての法人と税抜き年間売上高3億ウォン(3,000万円)以上の個人事業者は紙のインボイスが使えず、すべて電子インボイスによることが義務付けられた。 (消費税増税はやめて、税金は大法人からとれ・不公平税制をただす会、より)

〇インボイス制度がもたらす重大な影響
実質的に免税事業者がいなくなると、韓国のように、インボイスが紙から電子インボイスになり、キャッシュレスの進行と併せて、すべての取引が瞬時に国税庁に集積される。 消費者に対する販売にはインボイスの発行義務はないが、クレジットカードや IC カードによる支払いがマイナンバーとともに国税庁に集積される。
韓国ではデジタル化が進み、小規模事業者の付加価値税の申告書を国税庁があらかじめ作成して事業者に示す「記入済申告書」制度が始まっている。
デジタル社会では、事業者のプライバシーも消費者のプライバシーも申告納税制度もすべて失われる。その入り口がインボイス制度の導入だ。(インボイス制度導入の問題点・元静岡大学教授・税理士 湖東京至)
電子インボイス導入の結果韓国は、申告納税制度が形骸化され、監視社会になっていく。その手伝いをした形に税務士はなってしまった。そして日本もインボイス制度の担い手を韓国のように税理士に託したいのではと思われる。
そして、税理士会側も受け入れる気が十分という対応を取っていると感じる。

(2)日税連建議
2020年(令和2年)6月の日税連、「令和3年度税制改正に関する建議書」には、「令和5年10月に予定されている適格請求書等保存方式(いわゆるインボイス方式)については、 事業者及び税務官公署の事務に過度な負担を生じさせることから、行政手続コスト削減の方向性に逆行することのないように見直しをする必要がある。 また、新型コロナウイルス感染症の拡大による危機的な経済情勢下にあっては、準備期間等を考慮すれば、少なくとも適格請求書等保存方式の導入時期については延期すべきである。」と見直し、延期を建議している。
一方、「基準期間における課税売上高による納税義務の判定を廃止し、すべての事業者を課税事業者とした上で、当年又は当事業年度の課税売上高が一定額以下の場合は、選択による申告不要制度等を創設すべきである。」として、 全事業者が課税事業者になったうえでの申告不要制度も建議しているが、これではインボイス制度を容認したのと同じではないか。
売上高がいくら以下で申告不要にするとまでは述べていないが、例えば300万円とした場合、免税点が300万円に下がったことと同じ形になり、インボイス制度導入の落としどころとなってしまう。
さらに、2021年(令和3年)6月に承認された「令和4年度税制改正に関する建議書」は、重要建議項目の「適格請求書等保存方式を見直すとともに、その導入時期を延期すること」の記述の内容が変わり、 「簡易で安価な電子インボイス制度が整備されるなど中小企業者に対する負担軽減措置が講じられるまでの間は、導入を延期すべきである。」が書き換ええられた。
日税連は電子インボイス制度が整備されればインボイス制度自体には賛成に転じたと考えられる。昨年から建議している、課税売上高が一定額以下である事業者への申告不要制度の創設と併せると、 インボイス制度の下、免税事業者の多くは課税事業者になり(ならない事業者は廃業)、増産された申告のできない課税事業者は申告不要制度で救う、という図式が見えてくる。

V 「税理士法に関する改正要望書」日税連機関決定

T.日税連理事会
(1)2021年(令和3年)3月25日理事会
2021年(令和3年)3月25日 日税連理事会(web会議)において、日税連は下記の草案が議論された。

税理士法第2条の3草案
(税理士の業務の改善進歩の努力) 第2条の3「税理士は、第2条の業務を行うに当たっては、経済社会情勢の変化を踏まえ、申告等における電子情報処理組織を使用する方法の積極的な利用、 就業形態の多様化への対応その他の取組みを通じてその業務の改善進歩を図るよう努めるものとする。」

(2)2021年(令和3年)6月23日理事会
日税連は、2021年(令和3年)6月23日理事会において、「税理士法に関する改正要望書(案)」を審議、理事の賛成多数で議決された。

2.税理士法に関する改正要望書
(1)概要
経済・社会の更なる ICT 化が進展する中、ウイズコロナ・アフターコロナの社会・経済状況を見据え、ICT を前提とした税理士制度への変革が求められている。 また、税理士には税理士業務のみならず、公益性の高い業務を担うことも求められている。 これら税理士を取り巻く状況の変化に的確に対応すべく、多様な人材の確保を図るとともに、税理士の資質の一層の向上など国民・納税者の税理士に対する信頼と納税者利便の向上をはかる観点から、次のとおり税理士法の改正を要望する。

(2)内容
@ ICT化とウイズコロナ時代への対応
・税理士の業務のICT 化推進の明確化
・税務代理における利便の向上
・税理士会等の通知等の電子化
・電子記録媒体の見直し
・事務所規定の見直し

A 多様な人材の確保
・受験資格要件の見直し
B 税理士に対する信頼の向上をはかるための環境整備
・税理士法人の業務範囲拡充
・社員税理士の法定脱退事由の整備
・税理士法違反行為の事項制限の創設

C その他
・法33条の2に規定する書面の名称変更及び資産税用の様式制定

D 【参考】会則等で措置する項目
・会則遵守義務の徹底
・周旋業者の利用に関する指針の整備
・税理士職業賠償責任保険制度のあり方の検討

(3)問題点
@ 答申になかった改正要望
6月23日、日税連理事会において、「税理士の業務のICT化推進の明確化」の項目で、 「経済のデジタル化、グローバル化の進展等の環境変化に伴う税理士制度の継続的発展を期するため、電子申告・納税、電子帳簿、マイナポータルの利活用など税理士の業務のICT化の推進を通じて、 納税義務者の利便性向上に努めることを明確化すべきである。」の説明があった後、この項目で具体的に掲げられたのが税理士法第2条の3である。 「この条文については、これまでも取り扱いに注意して進めてきた。この条文だけが独り歩きすると改正が通らなくなってしまうからである。おかげでここまでこれた」等の説明があり、 税理士法第2条の3等がスクリーンに映された。それを書き写したのが下記条文である。

(税理士の業務における電磁的方法の利用等を通じた納税義務者の利便の向上等) 第二条の三
税理士は、第二条の業務を行うに当たっては、同条一項各号に掲げる事務及び同条第二項の事務における電磁的方法(電磁情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を使用する方法をいう。第四十九条の二第二項第八号について同じ)

の積極的な利用その他の取組を通じて納税義務者の利便の向上及びその業務の改善進歩を図るよう努めるものとする。 (税理士の権利及び義務等に関する規定の準用)
第四十八の十六 第一条、第二条の三、第三十条、第三十一条、第三十四条から第三十七条の二まで、第三十九条及び第四十一条から第四十一の三までの規定は、税理士法人について準用する。

(税理士会の会則)
第四十九条の二 税理士は、税理士会を設立しようとするときは、会則を定め、その会則について財務大臣の認可を受けなければならない。

近畿会の理事から質問で、「第2条の3は反対である。第2条に入っているのではないか。また、納税義務者の利便の向上は、税務行政の話、税理士制度がどうしてそちらに向いて行かなければならないのか? 2022年(令和4年)建議書に国民の権利保護が書いてあるが、税理士会はそちらの方向の納税者権利憲章をめざすべきではないか。」

回答 神津会長
「最初は 2条1項に入らないかと検討したが、別項で設けるほうが説明できるということで分けた。こうしないと改正できないので理解してほしい」

改正要望書と一緒に条文がもう出来上がっているのには今までの改正でなかったことなのでは?
また、この法2条の3は、2019年4月に日税連制度部が出した「税理士法改正に関する答申」にも出ていない内容なので他の項目と話が違う。
理事会で可決されたので終了後神津会長が国税庁に届けに行き、スケジュールは内閣法でやって今年 12 月の大綱に載せ、来年3月に改正できれば、ということだ。
しかし、こんな立法事実も何もないものを秘密裏に進めてきたのは、広がったら改正できなくなってしまうということなのか、手続きに大いに疑問が残る。
必要のない改正を行政に言われて行うので、税理士が騒ぎ出さないでほしかったということではないだろうか。
「納税義務者の利便の向上」は近頃の税理士法改正によく出てくるが、この目的の税理士法改正はおかしい、あくまで納税者の権利擁護のための改正でなくてはならない。
税理士会一丸となって国民のための税理士制度を構築するのとは程遠い提案である。

A 税理士法第2条の3の具体的問題点
(イ)税理士法になじまない。
税理士法(以下「法」)第 2 条は税理士が他人の求めに応じ、一定の租税に関する事務を業とする事を定めたものである。 また法第2条の2は、税理士には、裁判所において補佐人として出廷陳述権があることを定めている。
法第2条及び法第2条の2は税理士の業務の範囲を明らかにするものであり、かつ、その専門的な立場に置ける責任の範囲を示したものである。
しかし今回の改正案は、税理士のになう業務の範囲を示すものではなく、また、税理士の果たすべき責任の範囲も不明確であり、税理士が遵守すべき職業法規として税理士法になじまない。

(ロ)納税義務者の利便の向上は行政の役割では。
納税者の権利擁護が税理士の使命であるところ、納税者の利便の向上を図ることについては反対するものではないが、これを担うのは「納税者の自発的な納税義務の履行を適正かつ円滑に実現する」ことを使命として掲げている国税庁の役割である。
このような国税庁の役割を税理士も担うということが条文に書かれたこの改正は、到底受け入れることができない。

(ハ)税理士の業務の改善進歩を図る、役割は誰。
日税連会則第2条の目的には、「税理士業務(法第2条1項の業務をいう。)の改善進歩に資するため、税理士会及びその会員に対する指導、連絡及び監督に関する事務を行い、と規定している。
すると、税理士の業務の改善進歩を図ることは税理士会の役目であり、税理士の業務を定める2条関連に含めるべきでない。

(ニ)税理士会会則絶対的記載事項になじまない。
「第2条の業務において電磁的方法により行う事務に関する規定」を会則の絶対的記載事項に書いても、具体性に欠ける。

(ホ)税理士法改正に「納税義務者の利便の向上のため」は使うべきでない。
この改正がまかり通れば今後、「納税義務者の利便の向上のため」という文言を使用すればどのような内容であっても否定できない状況になる恐れがあり、この文言を条文に入れたこの改正で、 行政のお手伝いさんになる宣言にもなるので、到底受け入れることはできない。

B 法2条の3と電子申告
機関決定した法2条の3を含む「税理士法に関する改正要望書」は 2021年(令和4年)の通常国会で改正を目指す。 すると、2023年(令和5年)からのインボイス制度導入の時には、税理士は電磁的方法の積極的な利用を図るよう努めるものとなっており、そのことは会則の絶対的記載事項にも謳われる。
デジタル化で税理士が取り残されない方法として,行政の下請けになって生き延びるということかもしれないが、この考え方では、納税者の権利を擁護する、税理士の使命が達成できず、税理士制度は崩壊する。 ましてや、納税者の多くが壊滅的打撃を受けるインボイス制度を受け入れたとなっては、税理士に対する国民の信用は失墜するのでは。

W 国税庁の税理士法改正意見

「税理士法に関する改正要望書」を機関決定した理事会において、国税庁の「税理士法に関する改正意見事項(案)」を国税庁税理士監理官が説明した。
1.内容
(1)税理士に対する信頼の向上をはかるための環境整備
@ 質問検査権の対象範囲の拡大
A 反面調査及び官公署への協力規定の創設
B 懲戒逃れをする税理士への対応の強化
C 税理士法違反行為の徐訴期間の創設(日本税理士会連合会の改正要望と同資)
D 税理士法第 43 条に規定する業務の停止要件の明確化
(2)その他
E 税理士法の番号法対応

2.問題点
この国税庁の「税理士法に関する改正意見事項(案)」には、「質問検査権の対象範囲の拡大」として、税理士法 55 条の規定の射程範囲について、「元税理士」及び「にせ税理士」を追加する、を提案している。
また、「反面調査及び官公署への協力規定の創設」として、課税調査と同様に、税理士法においても、関係者に対する反面調査や官公署への協力要請に係る規定を新たに創設する、とするとんでもない提案もしている。
それゆえ後日、「税理士法に関する"改悪"意見に反対する会」なる団体から、何個かの任意団体に、国税庁の「税理士法に関する改正意見事項(案)」が送られてきて注意を喚起している。
多分、心ある日税連理事が匿名で送付したのであろう。
それにしても、いくら国税庁の意見と言っても理事会で説明報告するからには執行部はこの意見を黙認していたと考える。
もしこれが通ってしまったら、税理士は行政の下請け機関になってしまう。聞いたからには絶対反対を訴える必要がある。


税理士制度の見直しについて

1.2022年の税理士法「改正」について
2022年の税制改正大綱では、納税環境の整備の中で、税理士制度の見直しについて「税理士及び税理士法人は、税理士の業務の電子化等を通じて、納税義務者の利便の向上及び税理士の業務の改善進歩を図るよう努める」という規定を設けるとした。 その改正は2023年4月1日から施行するとし、2022年3月の通常国会で可決成立させた。
電子化等を税理士の任務としたのである。この意味することについてまず考えたい。

2.電子化は納税者にとって利便性があるのかどうか
@確かに電子化は時代の流れである。電子化や科学の進歩は人類の幸福につながるように活用することが求められることは言うまでもない。 そのために求められるのは、プライバシーの保護と、電子化についていけない高齢者をはじめ、「電子化弱者」の権利を守り、電子化の利便性の共有を図る努力をすることがまず求められる。

A政府が進めている電子化は、「国民に利便性」を押し付けしながら、電子化の名のもとに従来の商取引などをはじめとした「常識」を排除し、電子化しやすいように取引等を画一化して、それを納税者に押し付けするものである。 市場は本来自由なものであり、電子化する、しないは、一人一人の国民が判断して、利便性を感じるものが電子化すればよいのである。この自由すらはく奪しようとするものである。
さらにその先には、電子化を通して、時の権力者が、商取引や国民の財産、思想傾向までも把握することができる仕組みづくりとも連動している点を警鐘乱打する必要がある。

3.税理士法「改正」、インボイス制度の導入、新電子塗油簿保存法を総合的にとらえて考える。
@2023年4月1日から税理士に電子化への協力が義務化される。2023年10月1日からインボイス制度が本格化する。さらに、2024年1月1日からは電子帳簿保存法が施行され、いずれは電子インボイス制度が導入されることは疑いない。
本来商取引は、個人間の自由な取引で市場が活発化してきた。電子化が進むことで、「電子取引」については、電子帳簿にして保存しない限り、帳簿の保存と認めないとなって「青色申告の取り消し」につなげようとしている。 紙での保存が認められないわけである。
インボイスに至っては、国税庁からの「インボイスの登録番号」がない商取引は、消費税法上の「課税仕入れ」と認めないとしている。 このことから、1000万以下の事業者は業者間取引等から排除され、やむなく消費税課税業者にならざるを得なくなっている。

A本来申告納税制度は、決められた様式がなくても必要事項を記入すれば、納税義務者としての義務を果たしているわけである。青色申告にしても、その要件を満たしておれば当然青色申告者としての特典を享受できるものである。 電子申告でないと65万の控除が受けられない。大法人(資本金1億円以上)は電子申告でないと無申告になるなど、行政が法律を超えた存在として、行政の判断で法律が決めた手続きが変更されるものとなっている。 このことを短緒にして、商取引まで行政が口を出す体制を確立しようとしているといえる。電子化を進めることで帳簿の保存の仕方を変更させる。 請求書の書式まで変更して、行政の求める請求書でないと「課税仕入れ」と認めないなどと行政の権限が強化されたのである。
消費税法では売上1000万以下の事業者は免税業者と定められている。インボイス制度はこの規定の変更を迫るものであり、法律違反を行政が率先して行っているという憲法違反ともいえる内容である。

(小規模事業者に係る納税義務の免除)
第九条 事業者のうち、その課税期間に係る基準期間における課税売上高が千万円以下である者については、第五条第一項の規定にかかわらず、その課税期間中に国内において行つた課税資産の譲渡等及び特定課税仕入れにつき、 消費税を納める義務を免除する。ただし、この法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。

B電子化を通して、事業者に帳簿等の変更を強要して、取引の資料を権力が一手に握って国民を監視し、「記入済申告書」が納税者に送られるというような危険性が大いに危惧される。 いま政府は、マイナンバーの普及に全力を挙げている。ポイントまでつけて、膨大な予算をつけて普及拡大を図っている。保険証とのドッキングが図られ、近い将来は7億件といわれる預金等にマイナンバーが付与されようとしている。 「税・社会保障・災害」以外には利用しないとしていたマイナンバーを、「民・民」間で活用し、商取引にまで拡大することの意図が見える。 マイナンバーとインボイスの適格請求番号の連携がされると、すべての取引を権力が把握することが可能となると考える。

4.結論として
今回の税理士法改正には、電子化、デジタル化を進めるために税理士を下請け機関として活用するのが今回の「改正」とみられる。この点から反対の態度を表明する。

5.税理士のあり方
「税理士は税法学を実践する職業専門家である」(北野弘久)と言われている。そして、税理士法第1条は税理士の使命として以下の条文を掲げている。

第1条 税理士は、税務に関する専門家として、独立した公正な立場において、申告納税制度の理念にそって、納税義務者の信頼にこたえ、租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図ることを使命とする。

まずは「独立した公正な立場」がうたわれていることに注意を払うべきである。当然のこととして、課税庁との距離を置いた納税者の代理人であり、職業専門家としての立場を堅持すべきである。
そして、税理士は税理法第2条等によって「税理士の業務」が定められている。 @税務代理 A税務書類の作成 B税務相談 C付随業務 D訴訟の補佐・陳述 E地方公共団体の外部監査 F株式会社の会計参与 G政治資金監査 などがそうである。 これらの業務は税理士の資格がないとできないことから無償独占業務と解されている。
実態は税務書類の作成などは資格など必要でない業務が存在する。税理士が無償独占によって、業務が守られその結果、課税庁との関係では、「独立した公正な立場」が損なわれているという致命的な税理法の問題が存在する。
税理士の在り方を考えるとき、この点の改正抜きに税理士の使命が語れない。同じ士業であっても他の士業、他国の士業から大いに学び、税理士法の使命が果たせる改善を求めたい。


税務援助業務と税理士制度のあり方

はじめに 税理士制度、税務援助業務を国民・納税者目線で学び直そう!

税理士法では、非税理士の税理士業務を禁止している。唯一、非税理士に税理士業務がゆるされるのは、いわゆる「臨税」(臨時の税務書類の作成等)の場合だけとされる(税理士法50条)。
税理士法による「税理士業務」の無償独占、言いかえると「非税理士の税理士業務の禁止」政策については、さまざまな論点がある。
1つは憲法上の論点である。憲法は「職業選択の自由」を保障している(22条)。職業選択の自由は、経済的自由権の一つであり、憲法は「公共の福祉に反しない限り」 享受できる、と規定している。 税理士法による「税理士業務」の無償独占、言いかえると「非税理士の税理士業務の絶対禁止」政策は、その必要性を超え、過剰著しく不合理な規制ではないかが問われる。
憲法論議にも絡んでくるが、そもそも申告納税制度は国民・納税者の開かれた仕組みでなければならない。 申告納税制度を支える税務援助業務は、税務専門職と国民・納税者で分かち合ったうえで支えなければならない。とすれば、税務専門職だけが税務援助業務を独占する法制は合理的かどうか大きな疑問符がつく。
わが国の税理士法では、税理士が税務業務を独占する表記「税理士の業務」(税理士業務+税理士の業務、後記【図表1】參照)になっている(法2条)。 ドイツには、わが国と似た税理士制度がある。ドイツの税理士法では、税務援助業務(わが国の 税理士業務に相当)に政府規制をかけ独占業務としている。 そのうえで、独占の税務援助業務を、"税理士"と"税理士でない者(非税理士)"との間で分かち合う法制になっている(独税理士法1条以下)。
アメリカの税務専門職制度でも、税務援助業務(わが国の税理士業務に相当)は、広く税務専門職と市民・納税者とで分かち合う仕組みになっている。
この研究報告では、税法学を専攻する研究者として、税務援助業務(わが国の税理 士業務に相当)と税務専門職制度のあり方を、主要各国の制度にメスを入れたうえで、 比較法的に点検する。

1.わが国の税理士制度をおさらいする

(1) なぜ税理士しか税理士業務ができないのか
「税理士」は国の資格の1つである。税理士は国が認めた「税務に関する専門家」で ある(税理士法1条)。税理士に関する事がらは、税理士法に規定されている。
民間において業として行う税務事務(税務援助業務)はさまざまである。税理士法は、 税務援助業務のうち、「税務代理」、「税務書類の作成」、そして「税務相談」(これらを 「税理士業務」といい(税理士法2条2項))、税理士の独占業務としている。
独占業務ということは、税理士(正確には、資格を取得したうえで、地域の税理士会に入会[強制入会制]等の要件を充足した者)以外の者はこの税理士業務を行うことができないことをいう。 またこの独占の対象とされる税理士業務は、有償であるか無償であるかを問わないとされる(税理士法基本通達2-1)。つまり、原則として税理士でない者は、無償(ただ)であっても業として税理士業務はできないということである。 「業として」とは、継続的・反復的に行うことをさす(税理士法基本通達2-1)。
税理士でない者が税理士業務をすれば、2年以下の懲役または100万円以下の 罰金に処せられることもある(税理士法52条-59条4号)。 もっとも、「業として」、あるいは「税理士でない者」を処罰することについては慎重を期す必要がある。なぜならば、憲法は「職業選択の自由」や「営業の自由」、「結社の自由」などの人権を保障しているからである。 公共の利益や公共の福祉を盾にこうした自由権に公権力が過度に介入することは、憲法の趣旨に合わないからである。また、政府規制緩和の時代 的な要請に即して、処罰規定の適用は厳格に解釈される必要があるからである。
公認会計士と弁護士(弁護士法人を含む。)も、税理士業務を行うことができる。ただし公認会計士の場合、税理士登録をしなければ税理士業務を行うことはできない。 弁護士は弁護士資格のまま税理士業務を行うことができる(通知弁護士(税理士法51 条))。弁護士も税理士登録することができることから、弁護士が弁護士資格のまま税理士業務を行えるのは例外的措置になる。
税理士業務は税理士の無償独占業務とされる。特定の業務領域を独占業務化することは、政府規制で排他的な職業(仕事)をつくることにもつながる。 人の生命にかかわる職業などを別とすれば、政府規制緩和撤廃の観点からは独占を無制限に拡大解釈することには慎重でなければならない。
税理士業務が無償独占業務となった理由を探るには、税理士の前身である税務代理士制度をみる必要がある。税務代理士法は、戦時下の1942(昭和17)年に制定された。 膨大な軍事費を調達するため大増税が余儀なくされ、また税制も複雑なものとなった。このような時代背景のもと、税務を税務代理士の独占業務とすることにより、 税務代理士を税務官庁の補助機関とするために税務代理士制度は生まれたのである。 また政府の規制によリ税務業務を税務代理士に独占させることにより、税務官庁による税務代理士の監督を強化しようとするねらいもあった。しかし、こうした歴史観でもって現行の税理士法を解釈するのは時代に合わない。

(2) 「税理士業務Jと「税理士の業務」とは
税理士法は、税理士が提供できる業務を「税理士業務」と「税理士の業務」に区分して、規定する(2条)。これらの違いを図説すると、次のとおりである。



つまり、税理士法は、「税理士の業務」のうち、@税務代理、A税務書類の作成、そしてB税務相談を、とくに「税理士業務」として規定する。
このような区分をしているのは、「税理士業務」が、税理士だけの無償独占業務とされるからである。

(3) 「独占業務」の意味
専門家(専門職)の業務独占は、(1)「無償独占」、(2)「有償独占」そして(3)「名称独占」に区分できる。
それぞれの違いは、税理士の業務を例にすると、次のとおりである。



(4) 税理士は納税(義務)者の味方なのだろうか
税理士の前身である"税務代理士"は、税務官庁の補助機関としての存在であった。 "税理士"の立場も、税務代理士と同じなのであろうか。税理士法第1条は「税理士の 使命」として、次のように規定する。



この規定から税理士は、次のようなスタンスでその業務にあたることが求められる。



このように税理士とは、かっての税務代理士とは異なり税務官庁の補助者ではない。むしろ税理士は、依頼者である納税義務者に寄り添うかたちでその業務にあたることを税理士法は求めている、と解される。

(5) 他の仕業の「使命」との比較
税理士法はその第1条で「税理士の使命」を規定する。税理士の行動指針ともいえる「税理士の使命」をもう少し深読みしてみる。
税理士法は、「租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図ること」を、税理士の使命としている。 つまり税理士は、憲法の要請する租税法律主義に基づき制定された税法の定めるところに従って、依頼者である納税義務者の適正な納税 義務の実現のためのサービスを提供することがその使命である。
また、税理士はその使命を果たすため「独立した公正な立場」であることが求められる。税理士は「専門家」なのであるから「公正な立場」でその業務にあたることはいうまでもない。 なお「独立した」とは、納税義務者からも課税庁からも独立した立場ということがいわれる。しかし、「申告納税制度の理念にそって」、「納税義務者の信頼にこたえ」とあることから、 納税義務者から独立した立場と考える必要はないようにも思われる。ただし、いずれの立場からしても、納税義務者からの違法な要求に応えることは論外である。税理士は専門家だからである。
この第1条「税理士の使命」規定は、きわめて不明確な規定であるとの批判も多いところである。この点、他の士業や隣国の士業では、どのように規定されているのかを点検するために、例をあげると、次のとおりである。



今日、税理士が提供する業務には、税務書類の作成や税務相談に加え、税務代 理や訴訟における補佐人(税理士法2条の2)、その他税理士法に規定された税理士の業務以外の業務提供も求められている。 同時に税理士は、依頼者に提供する業務内容に対する専門家としての説明責任を負うこと、その業務に関して起こり得る利益の底触(利益相反行為)を避けるための十分な管理が必要である。 「依頼者である納 税義務者は消費者である」といったスタンスから、税理士法第1条の見直しを含む「税理士サービススタンダート」(税理士行動基準)の策定が急がれるところである。

(6) 税理士が提供する「業務」とは 税理士とは、政府の規制(保護)によりつくられた民間の税務援助業務を行う専門家である。この税理士は、税理士法その他の法律により、納税義務者などより依頼を受け、税務をはじめ会計、監査など、次のような業務を独占的に行うことができる。



なお、税理士法において税理士の業務の対象となる租税(税目)は、原則として国 税および地方税のすべてである。しかし税理士の援助があまり必要とされない、あるいは税理士の業務にあまりなじまない税目は除外されている。 例えば、印紙税、登録 免許税、関税などがこれにあたる(税理士法2条1項但書)。さらには、税理士以外の者であって、当局からの許可を受けて臨時に税務書類の作成ができるなどの例外もある(税理士法50条)。
またデジタル化の進展に伴い、資本金の額等が1億円を超える法人といった特定法人の電子申告の義務化(法人税法75条の3ほか)など、税務行政書類の電子化も急速な進展を遂げてきた。 その担い手として期待されるのも税理士ということになる。このような社会情勢から税理士法を改正し、税理士の業務の1つに、税務行政書類 の電子化の担い手としての規定を設ける動きも、今日活発になされている。 また、本人訴訟の形で租税訴訟を起こす場合に納税者の訴訟援助が可能なように、弁護士なしで納税者の補佐人となれるように税理士の業務の拡大を求める意見もある。
しかし、ドイツの税理士試験科目にあるような訴訟法(刑事訴訟法を含む) を追加するなど、試験科目の見直しをしないままでのこの種の業務拡大の主張 には賛成できない。 加えて、2020(令和2)年度の税理士試験の合格者5,402人の うち、5科目到達者は648人と、崩壊寸前の試験制度の立て直しは重い課題である。まず、資格の品質管理(QG)を急ぐ必要がある。
また、専門家業界が、独占業務化を拡大・強化しようとする主張に対して、私たち国民・納税者は、政府規制緩和撤廃の観点から慎重に向き合う必要がある。 国民・納税者が主役の申告納税制度をつくるためには、諸外国にならい、一般市民・ボランティアによる無償の税務援助サービスを広げる必要がある。 このためには、政府規制撤廃緩和の精神にたち、無償独占の税理士業務の有償独占化、名称独占化も一案である。

2.税務援助業務、税務援助制度とは何か

わが国では、「税務援助」とは、所得税の確定申告について「納税者を支援する業務」をさす。 これに対して、ドイツ税理士法では、わが国税理士法でいう「税理士業務」 を独占の「税務援助業務」といい、この業務を税理士(税理士法人を含む)と非税理士 が分かち合う法制になっている。
言いかえると、わが国でいう税務援助は、ドイツでは「非税理士が行う税務援助業務」または「税理士が行う無償の税務援助業務」をさす。
わが国は、所得税の確定方式として、申告納税を原則的な方式としている。申告納税制度は、納税者自らが自分の課税標準及び税金を計算して納めるところから、自己賦課(self-assessment)とよばれることもある。
申告納税制度が円滑に機能するためには、納税者全般に適正な納税意識が存在し、かつ納税者自身に適正な申告をおこなうための能力が必要となる。 しかし現実に は納税に関する一般的な意識、能力が不足しているため、適正な申告が行われないことも多々ある。 それらを補うために、青色申告制度(所得税法144条ほか)、適正な申告を確保するための記帳義務(所得税法231条ほか)、租税職員の質問検査権(国税通則法74条の2ほか)などの制度を設けられている。
わが国でいう税務援助制度は、納税者の適正な申告を支援することをねらいに設けられている。申告納税制度が円滑に機能するための一環として設けられている制度である。

(1)税務援助の種類
一般に、税務援助は、大きく@官(課税庁)が行うものとA民間(専門家やボランティ アなど)が行うものとに分けられる。
わが国における@官(課税庁)が行う税務援助(無料相談)の仕組みとしては、a.タックスアンサーとb.電話による税務相談、c.申告支援がある。



(2)民間の税務援助の担い手は誰か
一方、わが国のA民間が行う税務援助(無料相談)制度は、a.税理士会が行う税務支援とb.臨時の税務書類作成(臨税)である。



a.税理士会が行う税務支援では、その対象納税者に対して、税務相談、記帳指導、税務書類の作成などの援助を行う。 毎年、全国の税理士が約120万人の納税者の援助を行っている。税理士の延べ従事者数は約9万6千人に上る(2020(令和2) 年度実績)。
従来税理士会は、小規模事業者に限定して税務援助を行っていた。しかし、その後、対象者の範囲が確定申告者にも拡大された。 現在、確定申告期の無料相談として全国各地で行われ、同時に「国税当局が行う税務相談に関する委託事業など」に対応するために前記3つの支援内容に分けられた。しかし、この「臨税」は次第に縮小される傾向にある。



(3) 税務援助をなぜ税理士が行うのか
先進各国では、一般に市民ボランティアが幅広く税務援助業務行っている。ところが、わが国では、市民ボランティアは税務援助をすることはできない。現在、わが国では、おおむね税理士が税務援助を行っている。
これは、税理士業務は、有償、無償を問わず、原則として、税理士以外の者が行ってはならない(無償独占)とされているからである(税理士法52条、税理士法基本通達 2-1)。 税理士でない人が税理士業務を継続的・反復的に行えば、無償であっても2年以下の懲役または100万円以下の罰金に処せられる可能性がある(税理士法52条- 59条4号)。



このため、小規模零細納税者は、経済的な理由から税理士に依頼することのできない場合でも、税理士以外の者に(「臨税」の場合を除いて)、税務書類の作成や相談をすることはできない。
このように、税理士業務を無償独占とすることからくる義務として、税理士は税務援助をしなければならない、とされているわけである。

3.世界の税務援助制度を比べる

わが国と、オーストラリア、アメリカ、カナダ、イギリスの国税上の税務援助制度を比べてみると、おおよそ次のとおりである。



4.倉敷民商事件から見えてくる税務援助業務見直しの視点

倉敷民商事件では、倉敷民商事務局の3人の職員が税理士法違反で逮捕・起訴された。この事件は、中小業者・個人事業者保護の立場から、不透明な税務行政をただそうとする民主商工会の組織破壊を狙ったものであることは明らかである。
そもそも、申告納税制度は、国民・納税者が一丸となって支えるべき仕組みである。 申告納税のための税務援助をしたということで、逮捕・起訴などあってはならないことである。
この事件では、多くの民主的な団体や支援者はもちろんのこと、人権保護に敏腕な税理士や弁護士が訴訟に参加、尽力された。筆者は、過剰な政府規制を当然視するような法解釈で税理士法違反を問うことにはまったく賛成できない。
倉敷民商事件から見えてくる課題がある。それは、申告納税制度を国民・納税者でともに支えられるように、税務援助の仕組みの見直しが必要ではないかということである。 言いかえると、国民・納税者目線で税理士法を見直さないと、倉敷民商事件は、これからも何度でも起きうるということである。 民商関係者は、国民・納税者目線で、もっと現行の税理士法の問題点、さらには諸外国の税務援助制度などを、批判的に学習しなければならない。

見直し案について、私見をいうと、次のとおりである。
(1)申告納税制度と国民・納税者に開かれた税務援助のあり方
税理士業務の無償独占を護るために、これまでどおり税理士および税理士会が税務支援業務を独占するというのも1つの考え方である。 現在税理士をやっている人たちからすれば、職域を護リたいというのは当然の願望であろう。 しかし、この結果、例えば、市民団体や納税者団体が無償で税務支援を行う、証券会社社員が一般の税理士などが不得手の証券税制について無償の相談に乗るなどした場合、 税理士法違反(税理士法59条1項4号)を問われかねない。政府規制によリ特定業務を過度 に保護する結果、弊害が生じていることは明らかである。
自発的納税協力(voluntary compliance)を基礎とする申告納税制度の確立には、 国民・納税者に開かれた税務援助業務/制度が必要不可欠である。
例えば、ドイツ税理士法では、「限定的な税務援助業務ができる資格者」(法4条) のカテゴリーを設けて、幅広く事例を列挙して、税理士法違反問題が生じないように 必要な措置を講じている。
一例をあげると、「商業を営む事業者が、その事業活動の一環としてその事業取引と直接に関連する範囲で顧客に対して行う税務援助」(5号)を、法認している。
他にも、20ほどの「限定的な税務援助ができる資格者」の例を、税理士法に列挙し ている(本研究報告添付の「ドイツの税理士法と税務援助業務」【図表17】参照)。
ドイツ税理士法の「限定的な税務援助業務ができる者」の列挙例を参考に、わが国 の現状に即して、現行税理士法基本通達2 -1(税理士業務)に多くの具体的なケースを記載するのも一案である。 もちろん、解釈通達で対応するのは、憲法の租税法律主義とぶつかるのではないか、との批判もあろう。であるならば、ドイツのように、税理士法に書き込むのも一案である。議員立法でまとめてみてはどうか。

(2)税理士業務の有償独占化も一案 税務援助のあり方をめぐっては、さまざまな視点があって当然である。しかし、わが国の税務援助についてはもっぱら税務専門家業界と課税庁との護送船団方式で展 開されてきた。 まったく国民・納税者不在である。国民・納税者は、そうした状況を久しく座視してきたといっても過言ではない。 しかし、過度な政府規制の見直し、透明な申告納税制度が求められる時代に入り、国民・納税者不在の護送船団方式は転換期にきている。
税務の専門家業界が、税務援助を含め、独占業務化を拡大・強化しようとする主張に対して、私たち国民・納税者は、政府規制緩和撤廃の観点から慎重に向き合う必要がある。 税務サービスへの政府規制の強化・規制大国化は、納税者・消費者に 利益につながることばかリではない。申告納税制度を敷く多くの諸国では、一般市民・ボランティアによる無償の税務支援サービスが常識である。
わが国でも、政府規制の緩和を進め、無償の税務支援サービスの拡大、そのための税理士業務の無償独占から有償独占化を進めるのも一案である。罰則を背景にした税理士業務の無償独占化を維持・強化するのは時代遅れではないか。
ちなみに、現行の税理士法52条を、次のように改正すれば、無償であれば、一定の税理士業務を非税理士でも行うことが認められることになる。

この52条改正案に関しては、報酬を得なければ税務書類の作成や税務相談を行えるとの規定の仕方も選択できる。むしろ、こちらの方がわかりやすいかも知れない。 しかし、これでは、無資格者が報酬を得てこれらの業務を行った場合には罰則が科されかねないので(税理法59条1項4号)、このような裏から規定する方が好ましいといえる。
現行税理士法では、有資格者には、脱税相談の禁止義務が課されている(税理士 法36条)。そして、無償の無資格者であるボランティアにまでこうした義務を課し、かつ罰則をかける必要はないものと考えられる。 なぜならば、無資格者がこうした業務 を行う場合には、有資格者に比べ知識が劣る場合も考えられ、相談に対する回答 が脱税の指示に当たる可能性があるからである。 こうした場合まで処罰の対象とするのは、新たな政府規制にもつながりかねず、ボランティア精神にも著しく反するといえる。
ちなみに、アメリカでは、ボランティアの過失を免責する法律を制定し活動を促進している(1997年ボランティア保護法/Volunteer Protection Act of1997)。
また、現行税理士法では、有資格者には秘密を守る義務がある(法38条)。しかも、 この義務違反に対しては重い罰則がある(税理士法59条1項2号)。 しかし、無償の 無資格者であるボランティアにまでこうした義務を課し、かつ罰則を科す必要はないと考えられる。 なぜならば、有償独占を基本としている弁護士業務、弁理士業務、公認会計士業務の分野では、無償でこれら規制された業務を行った場合にも、秘密を守る義務やその義務違反に対する罰則の規定が置かれていないからである。
いずれにしろ、国民・納税者が主役の申告納税制度をつくるためには、諸外国にならい、一般市民・ボランティアによる無償の税務支援サービスを広げる必要がある。 このためには、政府規制撤廃・緩和の精神にたち、無償独占の税理士業務の有償独占化、名称独占化を急ぐのも一案である。 そして、これまでの税理士による税務支援に加え、無償を前提とした税務申告ボランティアを多数育成し、それらボランティアの人たちの協力による新たな税務援助制度を構築する必要があるのではないか。

【參考文献】
石村耕治編著『現代税法入門塾(第9版)』(2018年、清文社)
北野弘久『税理士制度の研究(増補版)』(1997年、税務経理協会)
坂田純一『実践税理士法(新版)1』(2015年、中央経済社)
日本税理士会連合会編『税理士法逐条解説(6訂版)1』(2010年、日本税理士共同 組合連合会)
石村耕治『開かれた税務支援制度のあり方を日米比較で検討する』税務弘報 2007年5月号・10月号
池田昭義『地方自治監査質疑応答集 監査員監査と外部監査人監査』(2000年、学陽書房)
阿部徳幸『改正商法・会計参与制度』税制研究NO.48(2005年)
阿部徳幸『税理士の使命-新書面添付制度を題材に-』
北野弘久先生追悼論集刊行委員会編 『納税者権利論の展開1(2012年、勁草書房)所収
『オーストラリアの税務専門職制度』国民 税制研究2号(2016年、国民税制研究所)
国民税制研究 第2号『国民税制研究』(jti- web. net)
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