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お知らせ
2010年6月から判例研究は、大阪税経新人会税理士研究会の主催で行うことになりました。
詳しくは大阪税経新人会税理士研究会のホームページをご覧ください。

大阪税経新人会税理士研究会のホームページはこちら

これまでの判例研究会の報告
月日 研究課題
 2023年
11月21日(火) 「税務調査手続の瑕疵と処分の違法性
-平成23年改正の趣旨から判示した裁判例の登場-」
「国税通則法」
10月13日(金) 「川崎民商事件」
 2022年
10月18日(火) 「被告人らが共謀して1人の被告人の個人事業として行った不動産取引を法人が行ったと仮想したものとして実質所得者課税の適用が争われた事案」
4月6日(水) 「所得税基本通達59-6 株式等を贈与した場合の『その時における時価』を考える」
 2019年
12月12日(木) 「消費税の仕入税額控除と帳簿の不提示」
10月10日(木) つまみ申告は重加算税の対象となるのか?
8月22日(木) 「重加算税と過少申告加算税について」
6月20日(木) 「相続開始に係る相続税の各更正処分及び
過少申告加算税の各賦課決定処分・棄却」
4月18日(木) 「相続財産の価額が相続開始後に下落した時の評価額」
 2018年
12月20日(木) 益金の計上時期を検証する
10月18日(木) 「借地権をめぐる採決及び判例研究」
6月21日(木) 過少申告加算税賦課処分取消等請求事件
4月19日(木) 消費税の免税事業者の課税売上高
3月26日(月) 「倉敷民商弾圧事件を考える(不正行為とは何か)」
 2017年
12月7日(木) 「遺産分割審判に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件」
10月12日(木) 譲渡所得の意義・最高裁昭和47年12月26日第三小法廷判決
1.譲渡所得の意義
2.譲渡所得の意義をめぐる判例の変遷
3.事業所得と譲渡所得の区分問題等
その他質疑応答
8月22日(火) 「有料老人ホームの入居一時金に係る相続税・贈与税」
6月22日(木) 「岩瀬事件を考える 実質課税と形式課税」
4月21日(金) 「倉敷民商事件を考える」
 2016年
11月17日(木) 個人住民税における寄附金税制の現状と課題
7月21日(木) 「粉飾決算による課税所得について」
5月19日(木) 「制限超過利息に対する課税について」
不法な所得
 2015年
12月3日(木) 相続税・贈与税・所得税・法人税における非公開株式の評価−時価の意義−
9月24日(木) 東京地裁平成8年(行ウ)第226号所得税更正処分取消等請求事件
 2014年
1月23日(木) 芦屋物納事件の核心を探る
 2010年
11月18日(木) 「年金受給権と年金の二重課税(最高裁平成22年7月6日判決) 」
9月16日(木) 「相続権の認知判決と更正の請求期間の起算日(武藤事件)」
「地裁判決・高裁判決『裁決取消・納税者勝訴・確定』」
7月22日(木) 「申告書記載ミスと所得税額控除
更正すべき理由がない旨の処分の取消請求事件」
6月17日(木) 「審判所・平成20年4月25日(全部取消) 裁決」
4月22日(木) 仮換地の指定による仮設住宅居住中の相続開始と
小規模宅地の特例の適用是非
 2009年
11月19日(木) 相続における名義預金等の判定
10月15日(木) 親族間の譲渡において著しく低い価額とは
東京地方裁判所平成18年(行ウ)第562号贈与税決定処分取消等請求事件
7月16日(木) 一般倉庫か、冷凍倉庫か――固定資産税
国賠法の損害賠償、20年間分の還付判決
6月18日(木) 破綻したゴルフ場、優先的施設利用権の消滅時期は何時?
 2008年
11月20日(木) 2ヶ所居住用宅地による小規模宅地の評価減特例適用の判断
7月18日(金) 物納財産の課税額と収納価額のギャップについての争い
6月20日(金) 退職所得における退職の事実を実質的に判断
4月21日(月) 「鑑定評価」も「広大地評価通達」もダメとされた判決(納税者敗訴)
 2007年
11月20日(火) 消費税仕入税額控除適用の可否
10月18日(木) 同族会社の代表者が第三者から自社株式を購入した場合の
みなし贈与課税
9月20日(木) 役員報酬適正額について
8月20日(月) 遺族が受取る生命保険金の相続税・所得税について
7月20日(金) 「所得税法64条2項の保証債務求償権行使不能が
確実と認められた事例」
6月20日(水) 特別縁故者に対する相続財産分与申立事件
5月18日(金) 「有姿除去/事業のように供する可能性の有無」
4月20日(金) 今津事件〜大津地裁判決
ずさんな経理処理をしてきた税理士に対する
損害賠償事件
1月19日(金) 「非上場株式の譲渡価格〜少数株主が取得する場合
所得税法36条1項2項(収入金額)
及び59条1項2号(贈与等の場合の譲渡所得等)」
 2006年
11月20日(月) 「役員退職金の退職の事実があったか否か
(役員の分掌変更について)」
10月20日(金) 分掌変更による役員退職金の
損金算入が否認された事例
9月20日(水) 土地の境界線を争った判決と
その後の家賃収入について
8月18日(金) 保証債務の求償権行使不能の判断(全部取消)
7月20日(木) 「最高裁平成4年 源泉徴収税額に関する判決」
6月15日(木) 大塚製薬事件/神社改築寄付金


今後の予定は 「年間行事予定」 のページをご覧ください。
2019年10月10日
つまみ申告は重加算税の対象となるのか?
10月10日の判例研究会は「つまみ申告と重加算税の関係」について、報告と議論を行いました。 参加は10名でした。
議論の対象とした判決は次のとおりです。
○最高裁平成6年11月22日判決 民集48-7-1379頁、事件名 所得税重加算税賦課決定処分取消
平成5(行ツ)133 第三小法廷

■事実の概要
この報告では、「つまみ申告」を所得金額のごく一部を申告する行為と捉えて議論を進めます。
最高裁まで争われたこの事案の特徴は以下のとおりです。
・記帳は隠ぺいや仮装を行うことなく存在していた。
・当初の申告(昭和53、54、55年分)では、最終決定額の約3.3%の額で行われていた。 最終的に決定した所得金額(3年分)は35億5875万3494円であった。
・税務署の調査からはじまり、最後は査察事案となり、決着をみている。業種は金融業。
・第一審:京都地裁は重加算税の賦課を認容、第二審:大阪高裁は重加算税の賦課を否定

■裁判などでの争点、論点
議論の前提として国税通則法68条第1項をみておきます。
「納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは……」とあります。
注意すべきは計算を行う際にも隠ぺいや仮装を行っていることが前提になっているように思われることです。 本件に即していうならが、記帳は正しかったが、申告の際に大幅に減額した。こうしたケースでもこの条文を適用できるのかという問題です。
最高裁は次のようにいっています。
判事事項 会計帳簿に不実の記載はないとしても所得金額の大部分を脱漏した確定申告書又は修正申告書が数回にわたり提出されていることなどにより 国税通則法(昭和五九年法律第五号による改正前のもの)六八条一項所定の重加算税の賦課要件が満たされるとされた事例
※裁判所の裁判例情報のサイトで表示された文章より引用
判決文では次の説明がなされています。紙幅の関係で要約します。
・きわめてわずかの所得金額のみを申告書に記載。
・(調査の過程で)虚偽の資料を提出するなどした。
・隠ぺいする意図を有していた。
・単なる過少申告にとどまらない。

■判決を批判する見解と論点など
ここでは、判決を批判する立場の三木義一氏の見解を要約して紹介します。
・最高裁判決は事実関係自体を総合判断で結論を出している。
・虚偽の申告自体を隠ぺいとみなしているかは不明。
・納税者の一連の行動を重視したと思われる

いくつかの文献に当たった報告者(大邊)の印象では、最高裁判決が出した結論を支持する見解が多いように思われました。 では、批判する人と指示する人ではどこが違うのでしょうか?
私は、どのようなキー概念に重きを置くかで、結果が変わって来ると考えます。
[納税者の人権][租税法律主義][租税の公平][国庫主義][課税庁の実務的発想への共感]、[脱税額と申告額の割合]、[時代背景や該当業種への態度][世相の状況]
より広範な人々への説得力をもつ議論をするためには、頭のなかの概念を突き詰めて考える必要があると認識できた研究会でありました。

[参考文献など]
○本件判決文が得られる
 事件番号:平成5(行ツ)133と判決月日(平成6年11月22日)で検索すると、判決の全文を入手できます。
◯三木義一 いわゆる「つまみ申告」と重加算税の賦課要件 判例時報1546号 p176
◯税法学原論 北野弘久 1984 青林書院新社
◯租税判例分析ファイルII法人税編 第二版 平成21 年 税務経理協会
 つまみ申告と重加算税 田中治・高正臣 p371
◯国税通則法の理論と実務 品川芳宣 2017 ぎょうせい
◯租税法第23版 金子宏 2019 弘文堂 ※実際には22版によった
◯脱税と制裁増補版 佐藤英明 弘文堂 2018年
 第二部 第5章 いわゆる「つまみ申告」と重加算税 


2018年12月20日
益金の計上時期を検証する
電力料を過大に徴収されていた会社

■判決の概要
Xは、電力会社が電力計量装置の設定を誤り、かつ、Xも気付かなかったため、それ以後12年余りにわたり電力料が過払いとなった。 その後電力会社は誤設定を発見し、過収電力料の返戻の申入れをし、確認書を取り交わすとともに返戻金と利息を支払った。
Xは過大電力料を徴収されていた期間の確定申告のうち、時効の経過した期間を除くものについて修正申告を行った。 これに対し課税庁は、確認書が取り交わされた期に全額の益金計上をすべきであるとした。

■検討
今回の判例研ではいつもと少し趣を変え、資料から裁判所の判決文を切り取り、事実の概要のみを事前に参加者に送付した。 判決文については、参加者それぞれが裁判員として判例研で考えてみるという方法を試みた。
議論は権利確定主義の論点から始めた。権利が確定したのは、両者が事実を認識し確認書を取り交わした時なのか、 両者とも気づいてはいないが電力料を過払した時なのか。
議論は損益同時(異時)両建計上説、不当利得返還請求権か損害賠償請求権か、修正申告の時効と課税の公平・正義、などに及び 時間内では判決を出すところまでは行きつかなかったが、いつもより活発に意見が飛び交い、有意義な判例研となった。


2018年6月21日
過少申告加算税賦課処分取消等請求事件
税理士による不正申告は常に7年遡及されるのか?

6月21日の判例研は次の判決を検討しました。
最高裁平成17年1月17日第二小法廷判決  「過少申告加算税賦課処分取消等請求事件」 

この判例は本人以外の者が不正な申告したとき重加算税や7年遡及を考えるときに基準となるべき考え方を最高裁が示したものとして よく援用されるようです。有斐閣の「租税判例百選」の5版、6版にも連続で採り上げられていることからもそれを示しています。

本事案は税理士が税務署員に課税資料を破棄させるなど極めて特殊な事実が背景にあります。
事実の経過などは次のとおりです。
平成2年に譲渡所得があった納税者Xは税理士Aに相談とすると「私は税負担を少なくすることができます」等の言葉を受け、 結果的に申告を任せることになりました。 ところがこの税理士は脱税や贈賄で逮捕されることなり、Xへの調査と課税が平成9年に行われ修正申告をすることになりました。 過少申告加算税と重加算税が課されることになり、これが結果的に訴訟になったのです。

[税理士Aの脱税行為]
昭和42年に税務署を退職後,税理士を開業していたが、長年にわたり、受任した納税者の不動産の譲渡所得に係る課税資料を、 税務署員をして廃棄させた上その譲渡所得を申告しないという方法による脱税行為を実行し、納税者から受領した納税資金を領得していた。 (最高裁判決文より引用)

[最高裁の判断]
判決文より判断理由のごく一部を抜粋して紹介します。
引用―――
○国税通則法70条5項の文理及び立法趣旨にかんがみれば、同項は、納税者本人が偽りその他不正の行為を行った場合に限らず、 納税者から申告の委任を受けた者が偽りその他不正の行為を行い、これにより納税者が税額の全部又は一部を免れた場合にも適用されるものというべきである。


2018年4月19日
消費税の免税事業者の課税売上高
最高裁平成17年2月1日第三小法廷判決

事業者が基準期間において免税事業者に該当するかどうかが争われた事案である。 争点となっているのは、免税事業者の売上高には消費税が含まれるか否かである。 東京地裁は、免税事業者の売上総額には消費税が存在せず、その課税売上高は売上総額となる旨判示した。 控訴審、最高裁についても第1審と同旨の判断であった。
このように裁判では売上高に消費税が含まれないとする説が採用され課税実務上この方法に統一されている。 しかし含まれるとする説を採用すべきと考えられる次のような点がある。
免税事業者からの仕入れについても仕入税額控除ができるということからすれば、 免税事業者の売上総額には消費税相当分が含まれると考えた方が整合性が取れる。 また、事業規模を判定する基準は課税売上高ではなく、非課税売上げをも含む税込総売上高の方が適していると考えられる。
免税事業者であっても課税事業者であっても同じものを同じ値段で売ることができる。 それは消費税相当額が価格の中に含まれていると考えているからである。
今後消費税が大幅に改正されていくが、そのひずみは改正の中で修正されていくのではなく、さらに大きく広がっていくように感じられる。


2017年10月12日
譲渡所得の意義・最高裁昭和47年12月26日第三小法廷判決
1.譲渡所得の意義 2.譲渡所得の意義をめぐる判例の変遷 3.事業所得と譲渡所得の区分問題等 その他質疑応答

1.譲渡所得の意義をテーマに
10月12日の判例研では「譲渡所得の意義を」テーマとして、[所得税課税金額に対する更正決定取消等請求事件:最高裁昭和47年12月26日第三小法廷判決] ※租税判例百選第6版78頁所収 を検討素材にしました。

2.事実の概要
事実の概要は次のとおりです。



3.裁判の経過と判決文の内容
(1)経過
1)熊本地裁 昭和38年2月1日判決  Xの請求を認容
2)福岡高裁昭和41年7月30日判決  一審判決を取消し Xの請求を棄却
3)最高裁昭和47年12月26日判決  上告棄却 

(2)三つの判決の内容
1)熊本地裁
本件のように単に1回限りの資産譲渡の場合には現実に取得できる金額より高額な税金を払わなければならないような まことに不合理なことが生じることが考えられる。 額面通りの価格をもって所得金額の基礎とすることは所得を過重評価する結果となり公平失することになる。
本件においては権利確定主義の原則をそのままに適用すべきものではなく、例外的に現実収入主義を適用すべき場合であると認めるのが相当である。
2)福岡高裁
その対価を取得することによって発生するものでなく、資産の植上りという形既に発生しているものであり、 このいわば潜在的な所得が譲渡行為によって顕在化したときに、課税の対象たる譲渡所得として把握されるものであると考える。 譲渡所得の本質はこのように理解される。そうすると、譲渡所得の発生には、現実に譲渡の対価を取得したか否かを問わないものということができる。
3)最高裁
一般に、 譲渡所得に対する課税は,資産の値上りによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として、 その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に、これを清算して課税する趣旨のものと解すべきであるとは、 当裁判所の判例とするところである。

4.租税判例百選[第6版]をもとに議論
判決内容を他の史料とともに検討して議論を行いました。
また、租税判例百選の第六版と第五版の該当評釈を元に深めた議論を行いました。


2016年11月17日
個人住民税における寄附金税制の現状と課題

第1章 寄附金制度の概要
第2章 地方税法と地方自治
【判例】
・大牟田電気税訴訟
・東京都銀行税訴訟
・神奈川県臨時特例企業税訴訟
第3章 納税者の立場から考察した場合
第4章 ふるさと納税について
第5章 住民税における寄附金税の課題


2016年5月19日
不法な所得
最高裁昭和46年11月9日第三小法廷判決

Xは金融業を営む個人である。Xは利息制限法所定の制限利率を超える利息を約定していた。 Xは、この制限超過利息のうち未収分を収入金額から除外した上で所得税の確定申告をしていた。 課税庁は未収のものについても収入となるとし更正処分をした。
最高裁は、制限超過の利息はその履行期の到来によっても利息債権を生じることはなく、 未収のものについては「収入すべき金額」には該当しないというべきである。と、判断した。
通常我々は利息について未収であっても収入計上している。また、不法な所得についても課税の対象となることは認識している。 これらのことから考えると利息制限法超過の約定利息についても課税の対象になるように思える。
しかし最高裁は、法律上その履行を強制するためのいかなる手段も有しないとして未収利息は「収入すべき金額」から除外しているのである。 「収入すべき金額」とは「収入する権利の確定した金額」を言い、収入の権利確定の時期としては 「原則として法律上権利の行使ができるようになった時を基準とする」という事を再度確認した判決である。


2015年12月3日
「取引相場のない株式」の時価……各税法に関する判例

■相続税・贈与税」に関する判例
【事案の概要】
原告は、「従業員持株制度」を設けている丸本組の代表取締役であった当時、本件株式を退職した従業員から 持株制度で取決めた取引価額「額面50円」で取得し、次に株式を保有させるべき従業員が決まるまでの間 一時的に保有していた株式について、無申告ということで、相続税法第7条により、 額面50円と時価(財産評価基本通達185「純資産価額」で評価した価額)との差額につき贈与税の決定処分を受けた事案です。
【筆者の感想】
当該議論の前に、持株制度での「一時立替的な株式移動」まで贈与税が課税されていたのでは、持株制度を運営している他の法人は脅威ではなかろうか

■「所得税」に関する判例
【事案の概要】
<所得税法第59条1項2号・同施行令169条>
個人が法人に対して著しく低い価額の対価(時価の1/2未満)で譲渡し、時価と譲渡対価との差額の譲渡所得税の更正処分をされた事例
【改正等】
所得税法第59条1項の規定適用についての「取引相場のない株式時価」については、、事実上「1株当たりの純資産額等を参酌して 通常取引されると認められる価額」という所得税基本通達23〜35共―9ニでの評価のみであったが、 平成12年に所得税法基本通達59−6が定められ、みなし譲渡課税における取引相場のない株式の時価を財産評価基本通達178〜189−7までの例を基本に 修正を加えながら算定することが示された。

■「法人税」に関する判例
【事案の概要】
A法人が個人甲からX法人の株式を購入し、当該購入時価について、納税者及び課税当局とも「純資産価額方式」により評価したのであるが、 純資産価額方式の評価において、「法人税額等相当額」を納税者は控除し、課税当局は控除せずに評価し当該差額について 「A法人が受増益課税」されたという事案がある
【判決後の改正と温情判決で納税者勝利】
法人税基本通達の平成12年課法2−7による改正により、法人税額等相当額を控除しないことが規定されるに至ったのであるが、 この改正前の平成3年10月当時、財産評価基本通達185本文に定める1株当たりの純資産価額の算定方式のうち法人税額相当額を控除する部分が、 「法人税課税における評価に当てはまらないこと」を一般の納税者では読み取ることは不可能であったという温情判決的な裁判所の判断により 納税者が勝訴した。


2015年9月24日
東京地裁平成8年(行ウ)第226号所得税更正処分取消等請求事件

所得が譲渡所得に当たるのか雑所得に当たるのかが争われた事件。 判決は、「「営利を目的として継続的に行われる資産の譲渡による所得」に当たるか否かの判断に当たっては、 その者の行っている資産の譲渡の客観的な態様・状況からみて経常的、計画的に発生する所得か否かを判断すべきであり、 具体的には、1)譲渡人の既往における資産の売買回数、数量又は金額、2)売買のための資金繰り、 3)当該譲渡に係る資産の取得及び保有の状況等を総合して判断するのが相当」との基準から、 原告は昭和62年から「多数の絵画を銀行からの借入金によって購入、保有し、多数回にわたって売買し、 また現実にも、多額の譲渡益を生じていることからして、本件絵画の売買は、「営利を目的として継続的に行われる資産の譲渡」に該当する」と判断。
しかし「…父祖伝来の土地や長期間にわたって保有していた事業用ないし投資用の土地を長期間にわたって 反覆的・継続的に讓渡したような場合は、広範な販売促進活動や開発行為を伴わない限り、その讓渡益は、 主として外部的要因による価値の増加として…讓渡所得」であるという金子宏氏の見解をみると本判決の判断には疑問が残る点もある。


2014年1月23日
芦屋物納事件の核心を探る

芦屋の資産家の長男だったAさんには、父の相続の税金を分割納付している最中に、母の相続が発生しました。 バブルのピークの平成3年3月のことです。Aさんは17億の財産のうち9億を相続しましたが土地がその99%だったので物納申請をしました。
更地はすんなり認められましたが自宅の敷地と貸家建付地の収納に15年を要しました。 もちろん借地権控除後の評価だったので1億8千万が未納となりその延滞税がなんと5億以上となりました。

Aさんはすべての財産を失いましたが、さらに連帯納付義務者である親族も1億以上の納付を強要され、兄のために泣く泣く自宅を立ち退きさせられたのです。 この事件の核心はいったいどこにあったのでしょうか。
Aさんは貸家建付地とその上のマンションを同時に物納しようと思いました。 課税庁の職員は、結果として収納財産を管理することになる財務局と相談するようにと仕向けました。 これが大きな過ちでした。
収納の決定権は国税局にあり、財務局にあるのではありません。 おまけにAさんの芦屋の自宅が倒壊し立て直しをせねばならなくなりました。 先祖代々のその土地を絶対に手放したくなかったので、国税局の了解を得て、息子にローンを組ませ、そこに新居を建てました。 そのまま立ち退いていれば高く収納されていたのですが。
これは、後から考えると、われわれ支援者にとって、悔やまれる行為ではありました。 底地物納をするのであっても底地評価をもっとたくさん認め残りの借地権を賃借権割合を明示して登記するようにすれば 収納を更地の4割じゃなく9割とかもできるわけです。 それが今後の解決の実現可能な方策だと思います。 あのバブルさえなければこんな不幸は生まれなかったでしょう。

この裁判の影響もあってか、収納決定期間の大幅短縮や、連帯納付義務の大幅緩和、延滞税率の大幅な軽減など多くの法律改正がなされました。 それがせめてものなぐさめとなったわけですが、AさんとAさんの親族は不幸のどん底におとされたままになっています。


2010年4月22日
仮換地の指定による仮設住宅居住中の相続開始と小規模宅地の特例の適用是非
上告審 納税者勝訴 (平成19年1月23日最高裁判決)

【本件の概要と主たる論点】
本件は、被相続人の居住の用に供されていた土地(以下「直前土地」という)が土地区画整理事業における仮換地の指定に伴い相続開始直前には更地となり、 また、仮換地についても使用収益が開始できない状態であった場合には、租税特別措置法69の4(旧69の3)の小規模宅地等についての相続税の 課税価格の計算の特例(以下「本件特例」という。)の適用があるか否かが争われた事件である。

【上告審の判断】原告(納税者)側もほぼ同内容を主張
1) 仮換地の指定がされ、直前土地及びその仮換地の使用収益がともに禁止されたことにより、 被相続人が仮設住宅への転居と直前土地上の居宅の取壊しを余儀なくされたこと
2) その後、上記仮換地に居住用建物を建築することが不可能な状態のまま、被相続人が死亡したこと
3) 被相続人又は相続人が相続開始ないし相続税の申告の時点において上記仮換地を居住の用に供する予定がなかったと認めるに足りる特段の事情はないこと

本件特例はこの裁判を受けて仮換地の場合の見直しが行われた。


2009年11月18日
相続における名義預金等の判定

11月の判例研は名義預金等(有価証券を含む)に関する平成20年10月の東京地裁判決を勉強しました。 情報公開法第9条1項による開示情報ですので、てんこ盛りに塗りつぶされた伏字があって、まるでミステリー小説を読んでいるみたいなものでした。
文章を解読し推計するところによれば、先妻の子2名が原告で、後妻さんの預金が名義預金だとされて、 そのとばっちりで原告の税金が約1000万ずつ増えてしまったので争ったということのようです。先妻の子等と後妻はまったく不仲となっていたようです。
被相続人はすべての財産を妻に遺贈すると遺言しました。それで先妻の子らは遺留分減殺請求をし、約6000万円ずつを取得しました。
調停により話し合いができたのですが、当事者同士では当該名義預金は妻の財産であると合意していたので減殺請求の対象にはしませんでした。 でもそのことと課税当局の判断は別だというわけで更正処分がなされたわけです。


2009年10月15日
親族間の譲渡において著しく低い価額とは
東京地方裁判所平成18年(行ウ)第562号贈与税決定処分取消等請求事件

【事案の概要】
原告は、平成13年8月23日戊から857.75uの土地を4億4200万円で取得しました。
平成15年12月25日にその土地の持分の一部を、配偶者及び子Aに相続税評価額相当額の対価で売買により譲渡し、平成15年度の所得税の確定申告では、 当該土地の譲渡に係る譲渡損失の金額1億1611万について、他の所得との損益通算し、申告書を提出しました。
これに対して被告(税務署)は、それを「著しく低い価額の対価による譲渡」に該当するものとして、通常の取引金額に相当する価額(時価)と当該対価の額との差額に相当する金額は、 相法第7条に規定する「差額」に該当するものとして配偶者及び子Aに対して平成15年分の贈与税の決定処分等を行いました。
これを不服として、その取消しを請求する異議申し立て及び審査請求(いずれも棄却)を経て本件訴訟に及び、裁判所は、 税務署が行った本件課税処分は違法であると判決し、その全部を取り消しました。これに対して、税務署は控訴せず本件は確定しました。

裁判所は、相続税法上の「時価」とは常に客観的交換価値で、 「すなわち課税時期において、それぞれの財産現状応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいうと解すべきである。」と判示した。
また、同法7条は、確かに「著しく低い価額」の対価で譲渡が行われた場合に課税するとされているが、その反対解釈として、時価より単に「低い価額」の対価での譲渡の場合には課税しないものである。
よって、売買の行われた当時の土地の路線価は更地価額の時価の81%で相続税評価額は時価の78%だった。これは、著しく低いとはいえず、課税対象とはいえない。


2009年7月16日
一般倉庫か、冷凍倉庫か――固定資産税
国賠法の損害賠償、20年間分の還付判決
(平成20年7月18日神戸地裁判決)

【事案の概要】
被告神戸市は原告株式会社Aに昭和38年ごろから建物(倉庫)について、固定資産税を「冷凍倉庫」であるのに「一般倉庫用」として課税していた。
原告は一般倉庫用ではなく、冷凍倉庫用である旨、被告に通知し、被告も実地調査を行い、建物はいずれも「一般倉庫用のもの」であって「冷凍倉庫用のもの」には該当しないとして、 平成14年度から18年度分の5年間分約6,556万円と還付加算金約545万を還付した。 しかし13年分以前は時効により還付できないとした。

【裁判所の判断】
租税法は、侵害規範であり法的安定性の要請が強く働くものであるから、租税法の解釈は、まず文理解釈によるのが原則である。 それが課税要件法定主義及び課税要件明確主義を含む租税法律主義(憲法84条)の要請するところである。評価基準にいう「冷凍倉庫用のもの」に該当する。
固定資産税のように金銭給付義務を課する行政処分に国家賠償請求を否定すべき根拠はない。平成13年度分以前も返還すべきである。
原告の損害の発生は、納付したことによって生じたと見るべきであり、原告に損害が発生したのは各年度の第4期納付日であるとし、裁判所は被告に対して、 過納金相当額の損害額約9,633万円、年5%の法定利息および弁護士費用600万円の支払いを命じた。


2009年6月18日
破綻したゴルフ場、優先的施設利用権の消滅時期は何時?

【事案の概要】
今回の事件は、平成元年に1,209万円で、Dカントリークラブの会員権を取得した請求人が、平成16年12月に10万円でMに譲渡し、 その譲渡による損失1,999万円を他の所得と損益通算して確定申告をしたところ、税務署から損益通算は認められないとして所得税の更正処分をうけ、 その取消しを求めて審判所に不服申立をした事案です。

【ゴルフ会員権の売却の経過と審判所の判断】
ゴルフ場の閉鎖直前の譲渡であるため、税務署が過敏に反応して更正処分をしたのですが、請求人の会員権売却時には、ゴルフ場としての体裁を、形式的にせよ整えていたため、 審判所もゴルフ会員権の持つ (1) 優先的な施設利用権  (2) 預託金の返還請求権  (3) 年会費の納入義務 は消滅していないと結論づけて原処分は全部取り消されました。
F社が、会員権所有者に対して、会員権の売却を勧め、その譲渡による損失を他の所得と損益通算して確定申告をさせるため、 会員権の売買が一定程度済むまで、何とか頑張ってゴルフ場経営を継続していたというのが本当のところだったのではないでしょうか。


2008年11月20日
2ヶ所居住用宅地による小規模宅地の評価減特例適用の判断

この事件は、納税者が相続により取得した二つの宅地について、両方の宅地が「特定居住用宅地」に該当するとして 小規模宅地の評価減の特例(租税特別措置法69条の4第1項)の適用を受けることができるかどうかを争った事例です。
所得税法では、「その者がその居住の用に供している家屋を二以上有している場合には、これらの家屋のうち、 その者が主として居住の用に供していると認められる一の家屋に限るものとする」と規定しています。
相続税法の小規模宅地の評価減の特例では、対象となる宅地は、主として居住の用に供されている宅地に限定されることはなく、 面積要件さえ満たせば複数の宅地でも認められると解釈するのが相当との判断が下されました。
被相続人は、家屋の他にマンションを所有しており、両方において生活することを選択した一つの生活スタイルと認定され、 両方が特例の適用があると判断されたのです。

佐賀地方裁判所平成18年(行ウ)第10号相続税更正処分等取消請求事件(全部取消)(納税者勝訴)判決日平成20年5月1日


2008年7月18日
物納財産の課税額と収納価額のギャップについての争い

平成3年に発生した相続事案です。
被相続人の土地の上に相続人が居住用建物を建築し居住していました。その土地について相続税評価は自用地でされるのに対し 行政の都合による収納価額は貸宅地(底地)でとなっています。借地権割合が60%で底地権割合が40%なのに相続税率が65%の部分が全体で、 かなり(25%以上)あります。
相続税の総額と課税価格の平均比率でも50%を超えています。これでは相続財産すべてを提供しても相続税が払えないという相続破産の事態になります。 このような法律は生存権を定めた憲法に違反するのではないでしょうか。またこの収納は手続きが遅れ平成18年4月にやっと収納されました。 それも一部の土地についてだけです。
相続税法第43条第一項(平成15年改正前)は、物納財産の収納価額は、課税価格計算の基礎となった当該財産の価額による旨、 但し税務署長は収納のときまでに当該財産の状況に著しい変化を生じたときは、収納の時の現況により当該財産の収納価額を定めることができる 旨規定しています。
この変化についてですが課税庁は収納の条件としての国有財産借受確認書を提出したことをあげていますが、 これはまさに収納のためだけに出したものであり、使用貸借である状態は課税時期から何も変わっていません。 なにか詐欺にあったようだというのが納税者の実感です。
この点については過去に判例もなく今回の事案については現在神戸地裁で争われています。 私としては物納価額を底地でしかとらないのならその時点で課税価額も底地価額に減額更正すべく法律改正をするべきだと考えます。
裁判の行方が注目されます。


2008年6月20日
退職所得における退職の事実を実質的に判断
学校法人理事長である高等学校長の退職一時金 納税者勝訴
(平成20年2月29日大阪地裁。全部取り消し確定 )


【概要】
原告学校法人は、大学、高校、中学、幼稚園及び専門学校が設置されている。
その理事長である甲は、昭和25年4月に高等学校教諭として就職。
平成14年3月31日原告は甲が高等学校長及び中学校の校長を退職し、原告の設置する大学の学長に就任するに当たり退職金を支払い、 退職所得の源泉所得税を納付したところ、税務署長は、「給与所得」に該当するとして賦課決定処分した。

【裁判所の判断】
甲の52年間の勤務に対する一時金として支払われ退職金としての要件を満たしている。
校長退職、学長就任という勤務関係異動は社会通念に照らし単に法人内における担当業務の変更といった程度にとどまらず、 甲の勤務関係はその性質・内容・処遇などに重大な変更があったといえる。
甲が52年勤し退職時74歳と高齢であり、甲の学長就任後の勤務関係をその校長在職時の職務関係の単なる延長と見ることは出来ない。
法基9−2−23の規定に該当するも退職とは限らず。あくまで実質で判断する、としている。


2008年4月21日
「鑑定評価」も「広大地評価通達」もダメとされた判決(納税者敗訴)

【平成13年6月相続開始事件】
第一審 東京地裁  平成17年11月1日判決   (請求棄却・原告控訴)
第二審 東京地裁  平成18年3月28日判決   (控訴棄却・確定)
上記相続による土地評価 原告 納税者 鑑定評価により 1億3000万円で申告
                被告 課税庁 通達評価により 1億6625万円で更正
※被告課税庁作成の「土地分割図」を全面的に容認し道路を造る必要なし等 として広大地にも該当しないとされた

なお、この事件の裁判中に広大地評価通達の改正(H16.6)が行われ、広大地に該当すれば最低でも4割減額される算式が通達に明示されました。 その参考となったのは、まさに「収集した不動産鑑定評価事例」を基に統計学の手法を用いて分析・検討を行い導かれたものである。 そうすると本判決は「通達改正前の事案」であるとはいえ、上記改正内容をまったく無視し、被告(課税庁)の主張を全面的に受け入れた判決のように思える。

【判決概要及び筆者感想】
納税者は「本件土地は不整形な画地」であり、「用途地域が中央で二分」されており、「住宅用地としては広大」である等比較的個性が強いから、 通達による画一的な評価はなじまないという理由で鑑定評価により申告したが、そのような事情は「通達(不整形地の評価等)で手当てがされている」として 通達優先で評価すべき判決が下された。
相続税法第22条では「時価」としか言っていないのだから本来「通達評価」と「鑑定評価」を同等な目線で判断されるべきではないだろうか? 疑問が残る判決でした。


2007年11月20日
消費税仕入税額控除適用の可否

最近の最高裁判決として平成17年3月10日までに3件立て続けに消費税仕入税額控除について 「保存」には「提示」も含まれる解釈で青色申告控除の「取消」と同じく「保存」が無いとして仕入控除税額否認とする判決が出た。
上記のように消費税法30条1項、7項の解釈について、「本判決を含む上記の3つの最高裁判決によって 法30条7項の解釈問題に決着がついたとは言いがたい検討の余地ある問題点だけを、簡単に指摘しておこう。」という見解もある。 その主なものは30条7項に記してある「帳簿等の保存」について仕入税額控除における「保存」と「提示」についての解釈をめぐる争いである。
これまで出てきた判決の中に保存と提示の中に法律以前の解釈で以って行われた事例があると考えられるが それらの判決においては最高裁判所裁判官の中に反対意見として少数意見も出ている。


2007年10月18日
同族会社の代表者が第三者から自社株式を購入した場合のみなし贈与課税

今回の判例は第三者(従業員116名)から自社株を購入した代表者が、同条を適用されて多額(本税で4億6280万)の贈与税を課税された事例だ。
本件の争点は相続税法7条にいう「著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合」にあたるか否かで、具体的には、
1)同条は、取引当事者が租税回避の問題が生じるような特殊な関係にある場合に限り適用されるものか、
2)同条にいう「時価」の意義及び財産評価基本通達の採る株式評価方法の合理性、であった。

判決は当局の主張を追認し、「譲渡された財産の対価と時価との差額、すなわち著しく低い価額での譲受けにより享受することとなった 経済的利益に担税力を認めている」「当事者間の関係や譲渡の意図、目的を問わずに適用される」となった。
しかし、「7条の適用は親族間の取引のように当事者間に特殊な関係がある場合に限定されるべきとの原告の主張に一理はある」 (品川芳宣・早稲田大学院教授)との意見もある。


2007年9月20日
役員報酬適正額について
役員報酬適正額は、類似法人における平均値ではなく、
売上金額と売上総利益の各増加率を加味して判断するのが相当であるとされた事例


【判例の事実】
X会社(原告)は、ある年度の法人の申告において、代表取締役甲の役員報酬を1,800万円(前年度比5倍)、取締役乙の役員報酬を960万円(前年度比3.2倍)とし、 それぞれを損金の額に算入した。
これに対し、Y税務署長(被告)は、類似法人の役員報酬平均支給金額(甲は620万円、乙は380万円)を上回る部分は 不相当に高額な部分の金額に当たるとして、所得金額請求を経て本訴を提起した。

【判決要旨】
本件年度の甲乙の報酬額は、X会社の売上金額の増加(約1.43倍)を基本とし、これに売上総利益の増加(約2.25倍)を加味して行うのが最も合理的と考えられる。
すると、甲は、右平均報酬額に基づく620万円が、乙は、前年度の報酬額を1.5倍した450万円がそれぞれ相当額の上限と認めるのが相当であるので、 X会社の請求は、いずれも理由がなく、所論違憲の主張は採用できない。

【私見】
中小同族会社にとって、類似法人との比較を行っても職務内容、使用人に対する給与等の実態は千差万別であり、 当該法人の実際の経営状態を知りもしない第三者が把握し客観的な判断をすることはできないのではなかろうか。 まして、直接経営上に携わっていない課税当局が、売上の伸び率に対して、役員報酬の伸び率が高すぎるなど指摘することができようか。


2007年8月20日
遺族が受取る生命保険金の相続税・所得税について

【事実の概要】
原告は夫の死亡により生命保険会社より年金で生命保険金を受ける権利2,300万円と第1回の保険金230万円を受領した。 相続税の申告については年金受給権として評価した。
15年8月に年金にかかる源泉徴収税額が洩れていることに気づき更正還付請求をしたが、税務署は雑所得として年金保険金を追加し更正処分をした。

【争点】
争点は本件年金が相続税法3条1項1号のみなし相続財産に当るか、所得税法上の所得に当るか、所得税法9条1項15号により非課税とされるか否かという点

【裁判所の判断とその後】
相続税法による年金受給権の評価は、将来にわたって受取る各年金の取得時における経済的な利益を現価(近似値)に引き直したものであるから これに対して相続税を課税した上、更に個々の年金に所得税を課税することは、実質的・経済的には同一の資産に関して二重に課税するものであることは 明らかであって所得税法9条1項15号の趣旨により許されないとして、長崎地裁で原告の全面勝訴の判断が下されたが、課税庁は18年11月福岡高裁に控訴した。


2007年6月20日
特別縁故者に対する相続財産分与申立事件

神戸家庭裁判所平成18年(家)第1742号特別縁故者に対する相続財産分与申立事件についての学習でした。 わたしの友人が取り組んだ事例でもあったのでやりやすかったです。
結果として500万円の財産分与が特別縁故者に与えられたのですが、総額5100万円の預金とマンション合わせた 遺産合計に比較するとちょっと少ないようにおもいました。
なおその審判にあたって検討されたのは以下の諸点でした。

【積極要素】
1)申立人は被相続人の従姉妹であって、家族のいない被相続人にとって親交のあった数少ない親族であり、 被相続人が晩年最も頼りにしていた人物ということができる。
申立人が、くも膜下出血を発症し、後遺症を患った後は親交が少なくなり、被相続人の死去にも気付くことが できなかったものの、必ずしも上記判断を左右しない。
2)被相続人の生前の知人に対する発言から、相続財産の一部を申立人に分与することは被相続人の生前の内心意思に沿うものと推察される。
3)申立人が被相続人の生前に被相続人から何らかの財産的給付を受けた形跡はない。
4)申立人夫婦は、被相続人の死後、葬儀等を主宰したのみならず、2か月間遺体が放置されたマンション内の 片付け清掃という困難な作業を行った。申立人夫婦には、今後も被相続人の供養を継続することが期待でき、 これらの供養には相応の費用を要することが見込まれる。

【消極要素】
1)他方、申立人は、昭和23年以降被相続人と同居したことはなく、被相続人の財産形成に対する寄与は存しない。
2)被相続人が、生前、自己の死後申立人へ財産を譲ることについて、明確に意思の表示をしたわけではない。
3)申立人が支出した葬儀費用等は相続財産から支払済みである。


2007年4月20日
今津事件〜大津地裁判決
ずさんな経理処理をしてきた税理士に対する損害賠償事件

ずさんな経理処理と税務申告により、税務署長から更正処分と青色取消処分を受け、 当時の税理士に対して損害賠償を求めた民事裁判は、2月26日大津地裁で判決があった。
詳細は税経新人会全国協議会のホームページ(税経新報4月号記事)に掲載。


2006年10月20日
分掌変更による役員退職金の損金算入が否認された事例
京都地方裁判所平成16年(行ウ)第34号更正処分等取消請求事件(棄却)

【事案の概要】
京都の染色業を営む同族の株式会社が保険金収入を得た年度で、その一部を役員退職金として代表取締役を退任したA及び取締役を退任したDに対して、 退職慰労金合計5,560万円(以下「本件金員」という。)を支払ったが、損金算入が全て否認された。
この事例では税理士の指導の下「役員の分掌変更等の場合の退職給与」に関する法人税法通達9-2-28(以下「本件通達」という)の条件や 役員職務変更に関する商業登記簿の登記手続きの処理も全てクリアしたにもかかわらず、次のような理由等で損金算入が全て否認され、 また退職所得でなく給与所得とされ、理由付記についても問題ないと原告の訴えが退けられました。

【裁判所の判断】
(1) 本件通達も、形式的に条件を満たせば、当然に退職給与と認めるべきという趣旨と解することはできない。 したがって、本件金員については、法人税法上、本件事業年度の損金に算入することはできない。
(2) 本件金員は、Å及びDに対する対価として支給されたものであるから、給与所得(賞与)と認めるのが相当である。
(3) 理由付記の有無について、「当事業年度において退職の事実がないと認められますので、 当事業年度の損金の額に算入されません」という本件理由記載は、法人税法130条2項の要求する更正理由の付記として欠けるところはない。

【判例研の意見】
判例研の発表の場で報告者発表終了後上記に関し次のような意見がありました。
役員給与の損金不算入は理解できるが、AおよびDの二人とも損金不算入という判断はおかしいと考えられる。 少なくともDの退職金は認めていいのではないか。


2006年9月20日
土地の境界線を争った判決とその後の家賃収入について
土地の境界線を争った判決結果得られた所得が損害賠償金とされず、家賃収入と認識されたため、修正申告を求められた実際事例

【事実の概要】
原告は、被告の隣合わせに「乙土地」を所有していた。被告は境界線を越えて(幅1.5m× 長さ35.m)ブロック塀の建設をしてきた。 原告は平成4年6月大阪地裁に境界の確認、並びに塀の撤去、土地の明渡しを求め訴訟を提起し、所有権は原告へもどったが、 原告は被告に対して、不当利得返還請求とし、月額84000円と、年5%の利息を求めた訴訟を提起し、平成12年4月28日最高裁での勝訴する。
しかし、実際の請求金額7.882.502円を被告が支払ったのは、平成16年8月で、あった。 原告は、平成16年度の利子所得として、2.171.696円を確定申告した。平成18年6月税務署より調査連絡があり、16年度分の家賃収入追加の修正を求められた。

【署との交渉点】
利子はすでに申告しているので、それ以外の部分(不当利得)は、「損害賠償金」である。 原告は、この裁判により(?)右目は視力を失い、今は左目しか見えない。つまり、身体的損害も被っている。

【結論】
時効であった。全て白紙で終了。


2006年8月18日
保証債務の求償権行使不能の判断(全部取消)

今回(H18.8.18)の判例研は、所得税法第64条A項(保証債務の特例、以下「特例」という)の適用につき 被告(課税庁)は、次の2つの要件を特に更正ポイントとして、 原告(保証人・納税者)と争ったが、埼玉地裁が課税庁の処分を全部取消し、原告が勝訴した案件です。

1)「保証債務を履行するための資産の譲渡」の要件
 つまり、主たる債務者に支払能力があると認められる場合は、たとえ求償権を放棄した場合であっても、 「特例」の適用を受けることができない。という内容ですが、本案件につき、原告(保証人)が、 主たる債務者が債務返済続行中にもかかわらず、保証人が当該債務を完済し、債権放棄通知書を同債務者に送付していること
2)「求償権の全部又は一部の行使ができなくなったとき」の要件
 つまり、債務保証をした時点で、既に主たる債務者に資力がなく、求償権の行使不能なものは、 保証債務の特例の適用を受けることができないという内容ですが、本案件につき原告(保証人)が、 主たる債務者が債務借り換え時、求償権の行使不能を認識していたこと

【裁判所の判断】
埼玉地裁は所得税法第64条A項に定める保証債務の特例の適用を受けるためには、 下記要件が揃えば、これで足りるものであって、それ以上に債権者の請求があった ことや主債務者の期限到来が要求されているとは解し得ない。 という判断をしています。
1)債権者に対して債務者の債務を保証したこと
2)上記1)の保証債務を履行するための資産譲渡であること
3)上記1)の保証債務を履行したこと
4)上記3)の履行に伴う求償権の全部又は一部を行使することができなくなったこと

※ 上記判例研究の詳細は「税経新報2006. 11月号」に掲載予定です


2006年6月15日
大塚製薬事件/神社改築寄付金
法人が神社改築のため支出した寄付金が、役員賞与とされた事例(徳島地裁平成5年7月16日判決)

今回の事例は、地元の成功企業で全国的にも有名な大塚製薬が、地元の神社の改修のために、各々5,000万円、1億円を寄付しこれを損金処理したことに対し、 税務署長がこの寄付行為の主体は大塚製薬ではなく、創始者の息子で当時大塚グループの会長であった大塚正士個人であり、 大塚正士氏の支出すべき個人的費用を大塚製薬が負担したものであるから、その寄付金は大塚正士氏に対する役員賞与であるとして 法人税等の更正処分等を行いました。
これに対し、大塚製薬はこの処分を不服として、本訴を提起したという事例を取り上げました。

判決では
1)かねてから地元の氏神を崇拝する念が強く、寄付を行うだけの十分な動機を有していたこと
2)あらかじめ大塚製薬の取締役会に諮ることなく自らの意志でこれを決定したこと
3)寄付を受けた各奉賛会が大塚正士氏の寄付としてその受け入れ手続きを行っていること
4)その上に税務調査後に芳名碑の「大塚正士」という記載が「大塚製薬社主大塚正士」と訂正され、 寄付の主体が大塚正士氏であることを糊塗するかのような工作が行われていること
などから税務署長の主張を支持した判決を下しています。

参加者からは、「社会的慣習からみても、神社の改築などは地元企業からの多額の寄付をアテにして行うのが当たり前。 それを役員賞与として課税するのはやりすぎだ。」「法人の寄付金とするならば、奉賛会の帳簿書類への記載も法人名とするなど、 手続的にもきっちりやっておく必要があったのでは。」などの意見がでました。
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